刄者と鬼 4
一方の籐弥はというと、この長い夜をどうやって芹那の機嫌を損ねず、克つ大事な療養時間を稼ぐかを頭の中で色々な意見を戦わせていた。
「……………………………………………………!!」
幾ばくかの沈黙の後に導きだされた結論に基づき、いそいそと着ている物を脱ぎ捨てていく。そんな様子を遠目で伺っていた芹那は、頬を赤く染めながら、籐弥の脱ぎ捨てた服を拾い上げて、丁寧に畳む。
「あの…、お…風呂、一緒に…入り…ませんか?……。嫌ならいいですよ、一人で入りますから…」
「入る。ううん…、入らせてください」
裸になった籐弥は、芹那の様子を見る事なく恥ずかしそうに声を掛けると、芹那の答えも聞かずに、足早に風呂に向かっていった。
普段なら芹那に引き摺られ、困惑しながら同じ風呂に入っている籐弥にしてみれば、今の誘いは最大限に芹那の機嫌を良くする為に取った行動であった。
そんな事とは露知らず、満面の笑みを浮かべている芹那は、急いで服を脱ぐなり風呂場の中へと籐弥の後を追い掛けていく。
「あのぅ……」
「何ですか?お風呂広くて気持ちいいですね♪」
「……どうして一緒に湯船にいるんですか…」
「だってぇ、『一緒に入ろう』ってご主人様が言ってくれたじゃないですか」
湯船の中で後ろから抱きつき、肩口に顎を乗せて胸の膨らみを背中に押し付けている芹那。腕は籐弥の下腹部辺りに回して、モゾモゾと掌や指先で剛直を触っている様子。
そんな行動に、真っ赤な顔になりながらも腕を払い除けようはせず、身体を捻り芹那の顔を肩から外して、ゆっくりと紅く柔かな唇に自らの唇を重ねていく籐弥。
……ンチュ…クチュッチュッ…クチュッチュッ……
舌が絡み合う音が少ししたかと思うと、銀色の糸を引かせて唇を離す。
「男をからかわないでください。僕だって…女を知ってる男なんです…でも、た────
「からかってなんかいません………。夜伽をして欲しいの…ご主人様。淫らな牝の芹那では嫌ですか?」
芹那は籐弥の唇に指を当てて言葉を遮り、甘えん坊な子供のような表情で問いただしてから、にこりと微笑む。
「ご主人様。鬼の芹那も淫らな牝の芹那も、橘籐弥の為だけの者です。だから芹那で満足してくれなきゃ、芹那はこの世で一番の幸せ者になれないんだよ♪」
芹那が真っ赤な顔で照れ臭そうに呟くと、籐弥の胸に顔を埋めて目を閉じて静かになる。
夜伽を始める前によく口にする台詞なのだけれども、そこにはその気にさせる駆け引きがあるわけでもなく、芹那の本心が言わせている為、言った後は必ず恥ずかしくなり、籐弥の顔がまともに見れなくなってしまう。だから照れ隠しに、籐弥の胸に顔を埋めてしまう芹那がそこにいる。