刄者と鬼 3
確認の為に芹那の頬から掌を離してみると、血が乾いて赤くなっている以外は、傷一つないツルツルした頬がそこにはあった。
「ご主人様、芹那を何だと思ってるの?芹那は鬼だよ。こんなのすぐ治せるんだからね♪」
ごもっともと感心しながら、赤ん坊をあやす様に頭をワシャワシャと撫でて辺りを見渡すと、首を跳ねた男以外はキレイさっぱり居なくなっていた。
賊は、芹那が籐弥に甘えでいる隙に、地を這うように逃げていったのである。
目の前に横たわる物を見ながら、『また無意味な殺生を…すいません』と反省し、遠くを見つめる籐弥とは別に、芹那は嬉しそうに声をあげた。
「あぁ!!ご主人様、この下衆賞金首だ」
「何ですと!?………。あちゃ、勢いで跳ねちゃったよ。芹那さん、何とかなりませんか?」
「大丈夫。こいつは生捕りじゃなくてもいい分類で…しかも金額は、どちらでも同額だよ」
「…そうと判れば、報償金を貰いに行きますよ」
「行こ行こ♪」
急いで男の首を持つと、二人は脱兎の如く峠を駆け抜け、在所に首を持ち込み、報償金を受け取るのであった。
その日の夕暮れ…賞金首はかなりの金額が懸かっていたらしく、二人は目を白黒させるような大金を受け取ると、久しぶりに豪勢な食事を楽しみ、峠道で約束した通り、宿に泊まる為にあちこちの宿を物色していた。
「ご主人様、この宿なんてどうですか?物凄く広いですよ♪」
「…横になる場所以外が勿体無いです。…あっ…これなんていいんじゃないですか?」
「ぶぅ…こんなのいつもの貧乏宿。今日は懐が暖かいんだから、隣の声なんて聞こえない所じゃなきゃイヤ♪」
「はぁ……、無駄遣いはしたくないんですけど…」
「ん!?……あ♪ここいい!!ここにしようよ♪部屋も広いし♪」
「……そうですね、これくらいならいつもよりは豪勢ですが、宿代もそんなに変わりませんしね。んゃ?…各種特役あります??なんだろうな?これは…」
「何でもいいの♪じゃあ、今日はここにお泊まりしよう♪…勿論、お泊まりだけなんて許さないんだからね、ご・しゅ・じ・ん・さ・ま♪♪」
「僕は泊まるだけがいいんですけど……」
目を輝かせながら宿代払い終えた芹那は、あまり乗り気ではない籐弥を引き摺る様に、案内された部屋へと乗り込んでいく。
勿論、芹那の頭の中は、これから始まる籐弥との長い夜の事だけが支配しているのでありました。