刄者と鬼 24
そして無言のまま見つめていると、芹那がゆっくりと目を見開いた。
「……ここは?」
自分の顔を暗い表情で見つめていた籐弥に問いただしてみる。すると籐弥は何も言わずに、顔を近付けてきた。
「………なっ!?」
「…目は大丈夫みたいだ。身体に違和感は感じますか?」
「…別に…感じない……っていうか、そんなに見られると恥ずかしい…」
何故か顔を赤くして、籐弥からの視線を逸らすように顔を背ける芹那。
そんな芹那の姿を見た籐弥は、少しだけ安堵の表情を浮かべるとその場から立ち上がり、部屋を出ていってしまった。
「ちょっ…ちょっと」
籐弥を追いかけようと、身体を起こした芹那の手から泪赤がこぼれ落ちた。
それを不思議そうに眺めていると、葵が部屋に入ってきた。
「あら、目が覚めたの…ところで籐弥君は?」
「あいつなら出ていったよ。祖母ちゃん…これ何?」
泪赤を指差し、葵に問いかけてみた。
すると葵はそれを拾うと芹那の手を掴み、押し込むように握らせる。
「…いいから持ってなさい」
「でも…」
困惑した表情で手を見詰めていると、立ち去ったはずの籐弥が部屋へと戻ってきたのに気付いた葵が、何やら籐弥に耳打ちして部屋を出ていく。
部屋に残った二人の間には暫しの沈黙が流れたが、堰を切ったかの様に、芹那が真剣な表情で重い口を開く。
「…そういえば、苦無で受けた傷はどうした?」
「なんのことですか?」
「惚けるな!!お前の右肩にはあるはずだ、苦無が深々と刺さった痕が!!」
「つまらない夢でも見てたんじゃないですか?」
「…いい加減にしろよ!!この目でちゃんと見たんだからな」
飄々と受け流す籐弥の態度に声を荒げて詰め寄ると、右肩を力強く両手で掴む。
すると籐弥はみるみる苦悶の表情に変わっていったが、言葉遣いと態度は相も変わらずに芹那をはぐらかそうとすることを辞めなかった。
そんな態度を取り続ける籐弥に対して激しく詰め寄っていた芹那は、掴んでいた右肩から手を離すと、真っ直ぐに籐弥の顔を見詰め、うっすらと涙を溜めていた。
「…ならあの時、どうして助けてくれた!!単なる気紛れか、それとも人殺しをしたかったからか!!どうなんだ」
「好きなようにどうとでも捉えてください」
立ち上がって溜め息をつくかの様に言い放ち、籐弥はまた部屋から出ていった。