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刄者と鬼
官能リレー小説 - ファンタジー系

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刄者と鬼 23

だが、何も起こらないし、何の変化も感じられない。…やっぱり奇跡なんて起きるはず無い。何を石一つに期待してたんだ。
落胆した表情を浮かべ、その場を立ち去ろうとしていた籐弥の目の前には、血の気の引いた顔をした葵が立っていた。

「……籐弥君…どうしたの!!その酷い傷は!?」

「僕は平気です…それより芹那さんを…」

「でっでも…ちょっと籐弥君!!」

葵の心配をよそに、籐弥は芹那を抱えて家の中へ上がり込む。
……………………………………………………………

「…なるほど。だからあなたは傷だらけで、芹那はこんな姿だったのね」

「ええ…」

芹那が眠る横で、神妙な面持ちを付き合わせている籐弥と葵。
籐弥は先程までの事の顛末を包み隠すことなく葵に告げていた。そしてそれを聞いていた葵は、暗い表情のまま籐弥を見詰めている。

「籐弥君。貴方や芹那の身に振り掛かった事は咎めることはしないわ…でも、あの石を使ってしまった事には問題があるの」

「…どういうことですか?」


「あの石は泪赤(ルイセキ)と言って、世間じゃ奇跡を起こす石なんて言われてるけど、本当は石を使ってみないと何が起きるかは誰も判らないのよ…」

「…判らないって」

唖然とした表情で葵を見詰めている籐弥。
そんな籐弥に葵は、自分の知りうる限りの泪赤の知識を話し始める。

泪赤…それは命を絶つ前の鬼が流した泪が赤く結晶化したものである。しかしこの現象事態が稀にしか起こらない為、確認されている個体数はそう多くはない。
そしてその泪赤を使用した時、ある者は死の縁から甦ったと吹聴し、ある者は不老不死になったと言い、またある者は神の様な力を授かったなどと口にしている為、いつしか人々は奇跡を起こす石と呼び、その二つ名のみが広く知られる事になった。


「と言う訳よ。…因みに私も、過去に一度だけ泪赤を使用するのを見たわ」

説明を終えた葵は、遠い目をしながら悲しそうに呟いた。

「その時は、何が起きたんですか?」

「その時は…病が完治したわ。でもそのせいで極端な身体の成長の遅滞が起きたの…」

「それって…もしかして?」
「そう…私のこと。私が見たのは、私自身に起きた泪赤の力よ…」

葵の言葉を聞いた籐弥は、何も言えずにただ黙って顔を伏せるしか出来なかった。

「でも、私に起きたことは必ずしも起きることじゃないから…とりあえずは様子を見ましょう」

顔を伏せたまま動こうとはしない籐弥を気遣ったのか、葵は明るく声を掛けると部屋を出ていった。
しかし一人芹那の前に残された籐弥には、結局のところ今自分が出来る事のなさに、情けない気持ちが込み上げてきていたのであった。

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