刄者と鬼 17
そして家の前までたどり着いたその時、好青年風な男が、家の中に居た葵と恵に一礼してこちらに近付いてくる。
その男に妙なざわつきを感じてはいた籐弥だったが、相手にするほどの事ではないとばかりに、男の横を通り過ぎて家の中へと入っていく。
「籐弥さん?芹姉と日向兄は一緒じゃなかったの?」
籐弥一人だけなのが不思議だったのか、恵は二人の事を問い掛けてきた。
「あぁ…その内帰ってくるはずだと思いますよ」
幼い子でもなければ迷子でもないのにそんなのは当人の勝手だと言わんばかりの口調で恵に答えると、すれ違った男は誰なのかと思い、二人は知っているかと問い掛けてみた。
「あぁ…あいつ…
二人は嫌そうな顔をしながら男について話してくれた。
男の名は由市と言い、日向とは付き合いが古いらしい。日向は由市を剣術の師匠と慕っているが、端から見れば単なるチンピラ紛いの刄者で、この近辺での評判も最悪としか言い様のないものであるとのこと。
由市がここ理由は、聴きたくもないから聞いていないと。
そんな二人の言葉を聞きながら、ふと籐弥は先程迄の出来事を思い出し、考えている。
……あの場所にどうして闇が居たのか?
なぜ、凜華は自分達があの場所に辿り着くまで、闇に傷一つ付けられてはいなかったのか?
物影に隠れていた気配は誰なんだ?こいつが闇使いなのか?
由市に感じた、妙なざわつきはこの出来事と何か関係しているのか?…………………………………………
いくら頭を使ってみても、教えられてない学問を解く様な感覚にしかなれなかった。
遠くを見詰めたような瞳で、自分の考えに答えを導き出そうとしていると、葵が座ったまま近付き、刀を目の前に差し出してきた。
「ちょっと籐弥君に聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」
「はい?…僕が答えられる事なら答えますけど」
「この鞘にある二つの宝飾…一つはただの紅玉だけど、もう一つは違うわよね?これって何かしら?」