僕の侍女はどこにいるの? 93
リスペクトのその一言が彼女の心をせき止めていたものを突き崩す。
その日の夜、大魔王の妊娠を喜ぶパーティの舞台裏で、1人の女性がリスペクトに向かって泣き続けていた・・・。
次の日の朝、リスペクトは大魔王が今回のことでじきじきにお礼を言いたいとのことで、謁見の間に来ていた。
これが済めば彼は人間界へと戻される。
「ご苦労でした、リスペクト。
あなたのおかげで私は後継者を宿すことができました。
魔界の全住民に成り代わってお礼を言います」
「いえ、こちらこそバランの呪いを解いていただき、真にありがとうございます」
そこには一切の私情はない。すでに昨夜別れを済ませている。
今の2人は、魔界の支配者と人間界の住人の関係なんだとお互いに強く言い聞かせていた。
未練を残すまいと懸命に自分の思いを抑えながら・・・。
「いいえ。あなたは魔王の跡目を巡る争いを未然に防いだのです。
我々はその恩人に対して礼を尽くさねばなりません。
・・・もし、困ったことがあればいつでもこちらへ来なさい。
我ら魔族はいつでも歓迎します」
大魔王の言葉に、リスペクトはその真意に気づいた。
たまには遊びに来てね。そう言っているのだ。
ならばこちらの答えはただ1つ。
「ありがとうございます。
私も人間と魔族が互いに手を取り合えるよう、努力する所存。
その折にはぜひよろしくお願いします」
「あなたの夢がかなうよう、祈っています」
それが彼女との別れの言葉となった。
その後、謁見の間を退席したリスペクトは、大魔王から褒美の数々を渡されて人間界へと戻っていった。
この後、リスペクトは何度か魔界に足を運ぶことになるのだが、それはまた別のお話。
今はただ、もう会うことはないであろう女性との別れと、自分を待っているであろう女性たちのことを胸に、リスペクトは人間界へと戻っていった。