僕の侍女はどこにいるの? 82
その戦いは血で血を洗う、熾烈を極める戦いに・・・ならなかった。
「うおおおぉぉぉっ!!」
リスペクトはバランが魔法を使うスキを与えずに一直線に突っ込む。
それはデヴィル族の王であるバランに対して、あまりに無謀な特攻だった。
「ふんっ、そんな単純な攻撃で私に勝てると思うなッ!」
案の定、バランはリスペクトの一撃をあっさりとかわし、その漆黒の刃を心臓めがけて突き立てた。
「リスペクトさまっ!?」
その光景に、テオドラは思わず声を上げる。
そしてバランも勝利を確信した。・・・が!
ドシュッ!!
「え・・・!?」
心臓に剣を突き立てられたはずのリスペクトは、そんなことなどお構い無しにバランの首を刎ねたのだった。
「・・・過去の幻とは言え、ぼくはもう2度とあなたに負けるわけにはいかないんだ、バラン」
それは幻夢の試練に打ち勝ち、全ての記憶を取り戻したリスだからこそできる芸当であった。
これが現実ならばリスペクトは当の昔に絶命していただろう。
しかしここは幻夢の世界。
どんな攻撃もリスペクトには通じないのである。
彼はそのことを最大限に利用して、バランを倒したのであった。
しかし、あの執念深いバランがそう簡単に死ぬわけがない。
「お・・・の・・・れエエエェェェッ!?」
バランは残された全ての魔力を使い、首だけの姿でリスペクトに襲いかかった!
おそらく、過去倒されたときと同様に自分を復活させるための呪いをかけようというのだろう。
・・・が。
「ムダだよ、バラン。ぼくは全てを知っている。
あなたが最後の力でぼくに呪いをかけようということも」
リスペクトは静かにそう言うと、光の剣を消す。
そしてありったけの魔力を練りこんで襲いかかるバランの首に右手をかざす。
「消えろ!バラン!」
次の瞬間、練りこんだ魔力を『光』に変換して『放出』する!
「えあああああああああぁぁぁっ!?」
光の奔流は首だけとなったバランに命中し、そのまま洞窟の壁に激突する。
しかしそれでも光の勢いは止まらない。
洞窟の壁に亀裂が走り、それは幻夢の世界そのものにまで広がる。
「ああああああああああっ!!!!」
リスペクトが、吼える。
自分やエリーを辱め、苦しめ・・・。
あまつさえ生まれてきた子供たちさえも手にかけようとした悪鬼を、彼は許すことができなかったのだ。
「ああああああああああああっ!!!!」
そしてバランの首が呪いともども消滅したとき、幻夢の試練も終わりを告げた。
パリーン・・・ッ!
ガラスの砕けるような音と共に幻夢の世界が砕け、リスペクトは再び大魔王の居城の一室に帰還を果たした。