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バクス戦記
官能リレー小説 - ファンタジー系

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バクス戦記 6

「フゥ…この脱獄用トンネルも開通まであと少しだな」
「掘り始めてから約一年…長い道程だった」
「もう少しでこの死の収容所ともオサラバだ」
何と彼ら、看守達の目を盗んで宿舎の床下から塀の外まで通じるトンネルを密かに掘り進めていたのであった。
バレないように少しずつ少しずつ…自由を夢見て一年も掛けて掘り続けたのである。
正気の沙汰ではないと思われるが、この気も狂わん作業に彼らを駆り立てたのは“生きたい”と願う強い意志であった。
だが…
 バアァァンッ!!
「そこまでだ!!」
「大人しくしろ!!」
勢い良く開け放たれる宿舎の扉、バタバタとなだれ込む看守達、次々と拘束されていく仲間達…彼らの一年にも及ぶ苦労は一瞬にして水泡に帰した…本当に、たった一瞬で…。
「チクショウ!!離せぇー!!」
「一体どうしてバレたんだ!?」
アルマも訳が解らなかった。
作業には細心の注意を払って来た。
バレるとしたら、それは、つまり…
「へへへ…俺が密告したのさ」
仲間の中で一人だけ看守達に拘束されていない男が言った。
「グスコー!!お前が裏切ったのか!?」
グスコーと呼ばれた男は悪びれもせずに言った。
「ああ、こんな馬鹿げた計画、成功する訳が無えからな。だったら上手く立ち回った方が利口ってもんだろ〜?」
「クソォッ!!仲間を売りやがって…」
「貴様それでもダルマーか!?」
「ケケケ…こういう所で生き残りたけりゃあ要領よく立ち回る事さ!」
「そうとも限らないがな…」
その時、看守達の後ろから軍服姿のバクスの男が現れて言った。
「ご苦労だったな、グスコー。貴様のお陰で大規模な脱走計画を未然に防止する事が出来た」
「これはこれは隊長様!お約束通り私を自由にしていただけるのですよね?」
「ああ、してやるさ…」
そう言うと隊長と呼ばれた男は腰に下げていた剣を抜いてグスコーを一刀の下に斬り捨てた。
「ギャッ!!!?…ど…どうして…?」
グスコーはバッタリと倒れた。
「約束通り、貴様の魂を肉体という枷から解き放って自由にしてやったぞ…」
そう言って隊長は汚い物でも見るような目でグスコーの死体を見下ろして続けた。
「私は卑怯者は嫌いだ。バクスであろうとダルマーであろうとな…」
「あ…っ!!!」
その時、アルマは気付いた。
隊長と呼ばれたその男が、5年前、自分達の村を襲い、家族や仲間の命を奪った部隊の指揮官…フェルディナントであるという事に…。
「ウアアアァァァァァァッ!!!!」
次の瞬間、彼は脇目も振らずフェルディナントに飛びかかって、たちまち看守達に取り押さえられた。
「クソオォォッ!!!離せ!!離せえぇぇ!!」
「何とも威勢の良いヤツだな」
「当たり前だ!!俺はお前を殺す事だけを夢見て今日まで生きてきたんだからなぁ!!」
「はて…私達は以前に会った事があったか?」
「テ…テメェ!!忘れたっていうのかよ!?俺達の村を襲って、母さんやみんなの命を奪った事を…!!」
「フム…辺境軍に居た頃は良く“ダルマー狩り”をやらされていた…命令だったからな。お前だって今までに食べたパンの形を全て記憶してはいまい?」
「…ウワアアァァァァッ!!!!ぶち殺してやるうぅぅっ!!!!」
怒りの余り看守達に取り押さえられている事も忘れ、なおも飛びかかって来ようとするアルマに、フェルディナントは溜め息混じりに言った。
「ハァ…まったく血の気の多いヤツめ。お前は怒りを向けるべき相手を完全に間違えているぞ。だがその事に全く気付いていない馬鹿だ。大馬鹿だ」
「はぁ!?何を訳の解んねえ事を言ってやがる!!」
「…私は現在お前達ダルマーを差別し弾圧しているベルゼルグ帝国の、その一介の軍人に過ぎない。仮にお前が私を殺した所で帝国は痛くも痒くもないだろう。場合によってはかえって対ダルマー政策が強化される事になるかも知れんな。お前のせいで…」
「じゃあどうしろって言うんだよ!!?」
アルマは叫んだ。
「簡単だ。お前の命をこの私に預けろ」
「はあ!?」
「お前達もだ!」
フェルディナントは他のダルマー達に対しても言った。
「私は今、帝国軍の地方の一連隊を任されているのだが、今度その配下に新たな部隊を創設しようと考えている。ダルマーのみで編成された部隊だ!」
「「「…っ!!!」」」
皆はハッと息を飲んだ。
「お前達ダルマーが正面きって帝国に武力で抗おうとした所で到底適うべくも無いだろう!だがダルマーとて立派に帝国の役に立つのだという事を帝国の支配者階級の連中に知らしめてやれば、帝国も必ずやお前達ダルマーへの処遇を改めるはずだ!」
「「「……」」」
「…これは強制ではない。判断はお前達に任せる。私の下でダルマーのために戦うか、それとも死刑台へ行くか、それはお前達の自由だ。私の下で戦うという事はお前達を差別するバクスのために戦うという事でもあるからな。良く考えろ。…明日、答えを聞く」
それだけ言うとフェルディナントは踵(きびす)を返し去って行った。

捕らわれた者達は皆、仮に入れられた牢の中で一晩、考えに考え抜いた。
アルマも悩んでいた。
(いま帝国中…いや、大陸中で迫害や弾圧に苦しんでるダルマーの仲間達の助けに少しでもなるのなら、俺は命なんて惜しくはねえ!…でも、だからって母さんや村のみんなを殺したバクスの旗の下で戦うのか!?)

翌日
「…良く決心したな」
フェルディナントの前には、全員が揃っていた。
「お前達は今日から奴隷ではない!ベルゼルグ帝国の兵士だ!」

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