グラディエイター 38
ミリー以外のメイドも口にこそしないが、気持ちは同じだ。
シェルもその気持ちは痛いくらいによくわかっていた。
でも。だからこそシェルは彼女たちを抱くことができない。
自分の気持ちと罪を自覚して入ればこそ。
シェルは少しの間をおいてミリーの胸から顔を離すと、申し訳なさそうに口を開いた。
「・・・すまない。ちょっと、1人にしてくれないか?」
その言葉に、ミリーたちは今日も彼の心の傷を癒せなかったことを悟る。
これ以上の会話はよけいに彼の傷口を広げるだけだろう。
メイドたちは自身の力不足を恨めしく思いながら、『わかりました』とだけ答え、その場を後にする。
「・・・何か、ありましたら・・・。また、お呼びくださいね?」
「ああ・・・」
ミリーのその言葉を最後に、メイドたちは全員外に出た。
シェルの心の傷が癒えるのはいったいいつのことになるのだろうか・・・?
――――
そして最後のディオはどう過ごしているのだろうかと言うと。
カポーン・・・
「ディオ様?おかゆいところはございませんか?」
「んー・・・大丈夫ー・・・」
「ディオ様、それではお湯をおかけします」
彼は宮殿を思わせる大浴場で、たくさんのメイドたちに囲まれてゆったりとした時間を過ごしていた。
普通、こんなおいしいシチュエーションを前にしたら、メイドたちは我先にと機士(ハイランダー)の子種を求めているところであろう。
だがディオのメイドたちは、誰一人として彼に迫る気配はない。
純粋に主人の疲れを癒そうとしているだけである。
髪を洗ってさっぱりとしたディオは、冷えた身体を温めるべくゆっくりと湯船に浸かる。
しかしメイドたちは誰も動かない。
許可もなく主人と一緒に風呂に入ることなど、彼女たちにとってあってはならない不作法なのだ。
「ふー・・・いい湯だなぁ・・・。レティシアさんたちも入りなよ」
「は。ありがとうございます」
主人の許可を得て、レティシアと呼ばれたメイドを含め、数人がディオのそばに寄り添う。
全員が入らないのは不測の事態に備えてのことだ。
まるで騎士のような忠誠ぶりに、ディオは苦笑するしかない。
そう、ここにいるメイドたちは、ディオに永遠の忠誠と隷属を誓った女たちなのだ。
機士(ハイランダー)に選ばれた男たちは、その能力の希少性からいろいろと融通の聞く立場にいる。
それゆえ機士に仕えるメイドにも主人の好みや性格が反映されることが多い。