グラディエイター 28
「あらアルト様じゃありませんか?こんなところで何してらっしゃるんですか?」
「!?」
不意をつかれたネコのように、ビクーン!と反応するアルト。
早く家族の元に行きたいと急ぐあまり、背後の注意が散漫になっていたらしい。
まだ幼いアルトらしい、かわいくも致命的なミスであった。
ギギギギ・・・とさび付いた機械が動くがごとく、アルトが恐る恐る振り返ると。
「・・・っ!?」
そこには獲物を見つけた肉食獣のような、そんな笑顔を浮かべるメイドが1人立っていた。
それを見たアルトは、悲鳴すら上げることができずにその場に飛び上がった。
そのメイドは、アルトにとって不倶戴天の大敵であったのだ。
「ノ、ノノっ、ノティム・・・っ!?」
「ちょうど仕事が終わって何をしようかと思っていたら、まさかアルト様に会えるだなんて・・・。
私ってばホント運がよかったですわ〜。
で?アルト様はここで何をこそこそしてたんですか?」
エロスの塊のダイナモ達と違い、メイドの選考は癒される存在かどうかが基準になっている。
アルトは子供な分、いくらエロスの権化であれ、母や姉に癒されているが、殆どはそうではない。
グラディエイターを降りたハイランダー達が真っ先に求めるのがパートナーでなく癒しであり、フィオナなんかはその典型であろう。
勿論、このノティムも柔らかな肢体と雰囲気は癒し系であるのだが、どうもアルトの前では狩猟本能が疼くようである。
彼女からすれば、『食べちゃいたい程可愛い』アルトがいけないのである。
「あ、あわっ!?あわわっ!い、いや、ぼ、ボクはそのっ・・・!」
まさか自分を狙ってくるノティムたちから逃げ回ってましたとも言えず、アルトは何とかこの場を切り抜けようとうまい言い訳を考える。
だがどんな言い訳で取り繕おうと、この態度ではすべてが台無しである。
ノティムも今までの経験から、もう理由は大体わかっているし。
しかし癒し系からハンターになったノティムは、あえて言い訳する時間を与えた。
ネコが捕まえたネズミをいたぶるように、すでに彼女のお楽しみタイムは始まっていたのだ。
「え、えとっ!えとえとっ!?」
「・・・まさかと思いますけど、この先の妊兵(ダイナモ)収容所に行こうだなんてしてませんでしたよね?」
「ええっ!?い、いやそんなことはっ!?」
「そうですよね?
お優しいアルト様が、戦闘が終わってボロボロになったあの連中のところに行くなんてこと、ありませんよね?」
ノティムの言葉に、アルトはぐっ・・・と言葉に詰まる。
彼女の言葉は別に妊兵(ダイナモ)たちを心配して言っているのではない。
アルトから避難場所への逃走路を断ち切るためだ。