元隷属の大魔導師 96
「ああ、そう言えば………サグレス君……ほら、タラス公のね……彼が帰ってこないって先生方が何人か捜しにいってたわね」
「…………ふ〜ん」
アリアの明らかに答えを知っていそうなヘルシオへの問いかけをフローラは切る。
浜辺での情事の事もあってか自分から尋ねる事がはばかられるアリアは適当に相槌を打つしかなかった。
「………ほら、それ以外にも足りない人が……」
「それなら……サグレス君を取り巻いていた子達じゃないですか?タラス公の権威が目当ての彼らは気が気ではないでしょうし……」
それでも、と続けるアリアに今度はフローラの趣旨が分かったヘルシオが参戦する。
「うっ………そう…なの……」
「「……………」」
ぐっ、と何かを堪えるアリアをフローラとヘルシオはニヤニヤと見つめる。
(なんか……ほんわかとしますね)
(そうなの。アリアは昔からイジリがいがあってね。ふっふっふっ……)
二人は顔を寄せ合うとアリアに聞かれないよう小声で会話した。
「………あのね、その……」
「なぁに、アリア?」
「…………デルマーノ、どこ?」
頬を赤く染め、小声で尋ねるアリア。
そんな彼女の様子を見たフローラとヘルシオは机の下で手を打ち合わせた。
「もうっ、アリアったら……ラブラブねぇ〜」
「ち、違っ………」
「いや、でも……そこまで女性に想われるなんて、デルマーノさんは幸せ者ですよ」
「だからっ……」
フローラとヘルシオが代わる代わるアリアの羞恥を弄る。
その度にアリアは顔を朱に染め上げた。
しばらくアリアを弄んだが、流石にこれ以上は可哀想だとフローラはアリアの知りたがっていた情報を教える。
「たしか、ここからすぐの……ほら、来る時に前を通った…あの教会にいるわよ」
「教会?」
「ええ。デルマーノさんは『俺は奴隷出身なんでね』とか言ってましたけど……聞いてませんか?」
「ええ……私は、聞いてないわ。えっ?二人共、知ってたの?」
コクリ、とフローラとヘルシオは頷いた。
「ま、デルマーノ君もアリアにだけは話すに話せなかったんでしょ?………それで、どうする?」
「?……どうする、って………」
「行っちゃうかって事よっ。大丈夫。姫様達の護衛は万全だからさぁ」
「……………」
パンパン、とフローラに背中を叩かれたアリアは数瞬、思案する。
「…………じゃあ、お願いして、いい?」
「まっかせてっ!………っていうか、今夜は帰ってこなくても良いわよ〜……うっふっふっ!」
「〜〜〜……もうっ!フローラったら……」
アリアは周りにも聞こえたであろうフローラの大声に顔を火照らしながら、席を立った。
「……………是非ともあの二人には幸せになって欲しいですね」
エーデルに頭を下げ、退室を求めるアリアを遠目にヘルシオは呟いた。
「ほんと、ほんと。アリアは奥手だし、デルマーノ君もああ見えて照れ屋だからねぇ〜……まぁ、それはそれとしてさぁ〜」