元隷属の大魔導師 6
一体何があったいうのだろうか。
人体をこうもバラバラにするなど、簡単に出来ることではない。
よく見れば男たちが乗ってた馬も、首や手足だけになっている。
あの縄みたいなのは、大腸――、アレは肩甲骨か。
だが、どんなに目を凝らしても、一番肝心なエリーゼ姫の姿が見当たらない。
それは無事を意味しているのか、それともただ単に死体が見つからないだけなのか。
「姫様……」
「おい、騎士様よぉ。いつまで呆けているつもり何だ?」
デルマーノの言葉に、アリアは意識を現実へと引き戻した。
(デルマーノの言うとおりだ。このままこうしていてもしかがない)
アリアは何か手がかりがないかと思い、凄惨な現場に恐れることなく、目を配った。
すると森へと続く道に何かを引きずった跡と、枝に布切れが引っかかっているのを見つけた。
見慣れた色をしたドレスの切れ端。アリアは動悸をした。
「これは、姫様の…ドレス……」
デルマーノは枝から布切れを取るとヒラヒラと空にかざした。
「……けっ…良い生地使ってんなぁ……アリア、どうやら姫様は妖魔に拐かされたようだな。ヒヒッ……」
「何っ?」
「こりゃ、オーガだな。オーガが四、五頭……お姫様を追ってきたらビックリ!オーガに襲われ、バ〜ラバラ♪ヒヒヒッ…」
この噎せる様な血の海の中で陽気な鼻歌を歌うデルマーノをアリアは怯えた目で見た。
デルマーノにではない(少し怖いが…)。エリーゼが死んだ、その事実が怖かったのだ。
「私が…私が……私がっ!」
地に両手を付き、涙を流すアリア。
その絶望の中、グンッと襟首を引かれ、無理やり立たされる。
「……お姫様は生きてんよ、まだな……雄しかいないオーガは多種の雌を自分の巣へ連れ帰る。後は分かんだろ?」
アリアはコクコクと無言で頷く。涙や鼻水やらで顔は酷い事になっていたのだろう、デルマーノは手拭いを渡してきた。
「アルゴ、お前は残って後片付けをしていろ!……アリア、悪ぃ。言い過ぎた…」
「えっ?」
「うぜぇ、聞き返すな…」
デルマーノは足跡を辿り走りだした。置いてかれないようアリアも後を追う。
(…何だったの?私が泣いたから?…でも……あ、照れたのね…)
クスッと笑みが自然に零れた。
彼の中では優しい青年と野生の獣が混ざり合っているのだろう。アリアは勝手ながらもそう理解した。
オーガの足は予想より速くはない。エリーゼが抵抗でもしている為だろうか。
次第に近付いているのが、アリアにも分かった。エリーゼの純潔が妖魔如きに汚されるなど、有ってはならない。
…
………
……………