元隷属の大魔導師 57
「?……大した違ぇはねぇだろ」
デルマーノは惚けたように言った。
「大丈夫?怪我してない?」
「平気だ。心配してくれてんのか?優しいな。姉とは大違いだ」
デルマーノはリーサの頭をわしゃわしゃ、と撫でる。
擽ったそうに目を細めるリーサ。
デルマーノは軽く彼女の背中を押し、奥の部屋へと歩を進めた。
「じゃあ、奥で診療してっから。診て欲しいって来た奴らは外で待たせておけ」
それだけ言うとデルマーノはパタン、と戸を閉めた。
「おい、貴族の娘っ子……手伝え。いやとは言わせねぇぞ?ここでは俺が法だ」
ラインバルトはそう言うとギロリ、とその威圧的な眼でアリアを射抜いた。
アリアは、もし自分がデルマーノの連れでなかったとしたら今すぐにでも飛びかかってきそうな殺気をこの小さな老人から感じた。
「は、はい……何をすれば………」
「これから来る奴を順番に並べる、それだけだ」
「分かりましたっ」
アリアは慌てて頷き、屋外へと飛び出した。
ラインバルトからの圧力に堪えきれなかったのだ。
「………あ〜、てしろ」
「あ〜〜……」
デルマーノの前に座ったリーサは口を大きく空け、喉の奥を見せる。
「二次感染はなし、と……次はい〜、だ」
「い゛〜〜」
デルマーノはリーサの歯や歯茎を観察していく。
「うしっ。精気もみなぎってきたようだし、問題はねぇな。薬はちゃんと飲んでるか?」
「うん、苦いからヤだけど……」
「まぁ、もう少しマシな味に出来ねぇ事はねぇが……量が倍近く増えるぞ?」
「うっ……なら今のままでガマンする」
「よし、イイ子だ。そんなお前にイイモン持ってきたぜ?」
デルマーノはぽんぽん、とリーサの頭を軽く叩くと、腰の袋から明らかにその袋より体積のある瓶を取り出した。
魔術が掛かっており、体積の十倍近くの荷物を入れることが出来るのだ。
「わぁ、果物だ♪」
「そうだ。しかも、蜂蜜漬けだぞ?」
デルマーノが取り出した瓶の中身は様々なドライフルーツを蜂蜜で戻したモノであった。
「ありがと、デル。お姉ちゃんと一緒に食べるねっ」
リーサはデルマーノから瓶を受け取るとクルクル、と嬉しそうに回る。
「ああ、じゃあ診療が終わったってラインバルトに言ってこい」
「うん♪」
リーサは弾むように頷くと部屋を出て行った。
「ふんっ……嬉しそうにしやがって。ヒッヒッヒッ…」
プレゼントへのリーサのリアクションを思い出し、デルマーノは笑う。
「さて、ちゃっちゃと済ますかね」
デルマーノは腕をまくり、呟いた。
「……ただの風邪だがな、用心はしろよ」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
初老の男性がデルマーノに何度も頭を下げた。
デルマーノは鬱陶しそうに、手をヒラヒラと振る。
老人はそれでも礼を言い、退室した。
「………ふぅ〜」
デルマーノは溜め息を吐く。
カチャ……
「デルマーノ、今の方が最後だけど……」
扉を開け、入ってきたアリアはそう言った。