元隷属の大魔導師 5
「…ああ、神に誓って嘘は吐かない。私に出来る事ならば、何でもしよう…」
「イヒッ!……契約成立だなぁ。俺の名前はデルマーノだ。よろしくな、『誇り高い』アリア・アルマニエ…」
デルマーノはそう言うと、今まで見せた中で最も凶悪な笑みを浮かべ、鞍から飛び降りた。
アリアは何故、自分の名をデルマーノが知っているのか疑問に思ったが、賊達に名乗ったのを思い出し、一人で納得した。
「ア〜ルゴ!その女とここにいろ!ちょっと見てくんわ!」
「オオォォゥッ…」
ローブの中のデルマーノの左手で何かが光った。
今の今まで目の前にいたデルマーノは既に視界の隅にまで駆けていた。
(速い…)
それは何の魔術かも分からず、アリアはただ感心する。
首を刈られた賊達や馬の屍には全て、斬首以外の致命傷が負わされていた。
あの一瞬の間に少なくとも十二回、槍を敵の急所へ的確に振ったデルマーノ。
(彼だったら…間に合ってさえくれれば……姫様…)
目を瞑り、エリーゼの安全を祈る。
その時、腰に力を感じ身体が浮遊する。
「キャアッ!」
自分でも赤面したくなる、少女の様な悲鳴をあげてしまったが、しかたない。それ程、驚いたのだ。
気がついたら雲の上にいた。
男は一瞬のうちにアリアを抱えあげると、そのままドラゴンに跨り飛び上がったのだ。
「うわあ……」
はじめてみる空から見る情景に、アリアは任務のことを忘れて見入っていた。
吹きすさぶ風が、火照った体を冷やしていく。
初めての体験に、心がフワフワと湧き上がってくるのが感じられる。
だがそんな高揚感も長くは続かない、突然竜が急降下を始めたのだ。
「キャーーッ」
文字通り魂消えるような悲鳴を上げ、思わず男に抱きついてしまう。
このまま地面に墜落かと思ったが、寸前になって竜が羽を広げエアブレーキをかけると降下はゆっくりしたものになった。
軽やかに着陸したが、強いショックを受けたアリアは、未だ男にしがみついたままだった。
「いい加減放してくれねえか、服が皺になるだろ」
「あっ」
我に返ったアリアは慌てて男の服を放すと、地面に降りようとした。
だがよく確認しなかったため、地面の泥濘に気がつかず、ずるりと転んでしまう。
「あうっ」
そのまま転んで思わず尻餅をついてしまう。
「ヒヒッ。空を飛んだのは始めてか?騎士様も意外とだらしねぇんだな」
そうからかいつつも、手を伸ばして男はアリアが立ち上がろうとするのを手伝おうとした。
(意外と親切なんだな)
だらしないと言われた時はむっとしたが、手を貸したりするところを見ると、根はいい人なのかもしれない。
ありがとうと礼を言い、立ち上がってみると、自分が足を取られた原因が分かった。
「これは――」
辺り一面は血の海となっており、追っ手の男達の首や手足が散らばっていた。