元隷属の大魔導師 33
二人が頷くのを確認するとヨーゼフは続けた。
「そこでエーデル隊長。君の隊に皇妃シンシア様と御子ユーノ様、リリア様の救出、護衛をシュナイツ王国が任じる。そしてデルマーノ隊長。君にはエーデル隊の護衛をお願いしたい」
「「……は?」」
最上級上司相手であるのを百も承知でデルマーノは疑問符を掲げた。
意味が分からない。
護衛を護衛する任務など前代未聞であった。
「む?少々、分かりづらかったようだな?すまん。詳しく言うと、だ。ターセル皇国にはもう抵抗する力はない。先日のクレディアの攻撃で兵の七割を失ったらしいのだ。残軍は現在、皇都で籠城している。保って十日だろう……」
「そこで私の隊がシンシア様達の亡命の幇助する。それは分かりました。けど、デルマーノ隊長が何故、私達の護衛をするのでしょう?」
訳が分からないとエーデルは問うた。
「それは……」
「クレディアの翼竜騎士団……ですね?」
「…う、うむ。そうだ」
ヨーゼフの言わんとする事を察したデルマーノはエーデルの問いの答えを言う。
北の大国クレディア。
その中でも最も北に位置するフィンドル地方。
標高三千を超える山々が聳えるフィンドル特有のワイバーンを駆り、クレディアに絶対の忠誠を誓った翠の軍『翼竜騎士団』。
(んでシュナイツの飛行兵力は宮廷魔導師とペガサスのお祭り部隊だけ………身内を助けるためだけだから他の同盟国にゃ頼めねぇし……宮廷魔導師団を頼っちまうと近衛騎士隊の面子丸潰れ……だから俺とアルゴに任せるっきゃねぇ、と。イッヒッヒッ、騎士様は我が儘だねえ)
ヨーゼフの思惑を推理したデルマーノ。
恐らく的を得ているだろう。
「……それで、出発は?」
「明朝だ」
「了解。では、失礼します」
音を立てず椅子を引くと笑みを浮かべて一礼し、退室した。
すぐに後を追ってきたエーデルに呼び止められる。
「……何でしょう?」
「デルマーノ隊長!貴方は分かってるので?精鋭の騎士団を一人で相手にしろと言われているのですよっ?」
「ええ、承知しています」
「っ……なら」
「大丈夫ですよ。アルゴ――僕の飼い竜ですがね――彼に比べればワイバーンなどモノの数ではありません」
微笑を浮かべ、窓から竜舎を眺めたデルマーノ。
釣られ、エーデルも見つめる。
中で微睡んでいるのであろう飼い竜に彼は絶対の自信があるのか、動じた様子はなかった。
「……では」
コツッコツッと足音を立て、階下に消えていく若き魔導師。
女騎士隊長は彼ならば本当に『翼竜騎士団』と渡り合えるのでは、と思ってしまった。
翌日、早朝……
第一王女付き近衛騎士三十二名と黒竜を駆る宮廷魔導師はディーネを出立する。
強行軍での旅の為、三日目の昼にはターセル皇国、国境に辿り着いたのであった。
「関に……誰もいない?」
空き家となった関所の前で呟いたアリアの問いにエーデルが答えた。
「恐らくここにいた騎士達も皇都に召集されたのでしょう」
「それ程までに……この国は疲弊しているのか…」
ならばシンシアの救出は一刻を争う。