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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 307

己へと慇懃な態度で望むものの、その素顔は見せぬよう俯いていた。
否――そもそも、この男は正面から向かいあったところで全貌を拝むことは適わぬである。
ハンセルは剣呑半分、警戒半分の猜疑的な眼差しで黒衣の男――『黒羊』魔導騎士団副団長、ディーク・マクスベルクを見下ろした。

「それで?なぜ、貴様ら羊共が帝都から遥々このようなところまで来たのだ?」

ハンセルは、実に不愉快だった。
この場は自身が有する『白狼』全隊がカルタラ同盟全土へと戦線を拡張するための吶喊点として戦争をしている戦場である。
つまり、自分の戦場であるのだ。
それをノコノコと他の騎士団に介入されて平気であるのだとすれば、それは騎士として誇りが欠落しているとしかいいようがないのだ。
そんなハンセルの憤りを、しかし、ディークは気ほども忖度せずに返してきた。

「我らが帝国、その繁栄こそが第一に置かれている――これは私と閣下の共通認識であると唱たところで、いずれの御仁も否定はしないでしょう」

「う、む。異存はない」

「ええ、ええ。ですから、我ら惰弱なる『黒羊』も微力をお貸ししなければと、そうして参上した次第であります」

「…………ふん」

ハンセルは再び、鼻を鳴らした。
話にならなかった。
仮に、立場が逆転した状況で自分が彼ら『黒羊』に同じことを進言したとしたら、返ってくるのは侮蔑の眼差しであろう。
まず、馬鹿でしかない。
それに第一に現在、一部の部隊がカルタラ同盟の竜騎士や魔導師に足留めを食らっているとはいえ――「ウェンディ王都へと進む一万六千の精鋭たちが揃って妨害を受けている」やら、「フィンドルの『翼竜騎士団』が八部隊全滅した」などという戯れ言まで報告されてはいるものの、それは戦場でよくある混乱と欺瞞交錯でしかないとハンセルは一笑に伏していた――、援軍を要請するほどの苦戦を強いられているわけではないのだ。
剣呑と不快の眼差しをハンセルからだけではなく、『白狼』騎士団幹部全員から注がれるディーク。
しかし、青年と呼ばれる期間をそろそろ終えようころだろう魔導師は柔和に続けた。

「ほう?もしや、ご存知ない?」

「……?なにをだ?」

「はたまた、信じられないだけか……ああっ、根本的にすら情報を収集していないと?」

「なにを言っている?」

懐疑に眉をひそめたハンセルだったが、ディークはロープの中から覗かせる赤い唇を歪めるばかりだ。

「っ――貴殿は、何を言っているのかと申しておるっ!」

遂にはハンセルが声を荒げた。
すると、黒衣の魔導師がクツクツと笑い声を上げてくる。

「このっ――」

「おっ、と……」

ディークがわざとらしい怯えを見せてきた。
なんなんだ、この男は?
ハンセルの堪忍袋の緒がキリキリと音を立てた。
すると、さすがにそのような空気を察したのか、ディークが続けてくる。

「……貴方の――いいえ、帝国の誇る翼竜騎士団の件なんですがね……。早いうちに一度、点呼を取ったほうがいいかと思いますが?」

「っ?」

点呼、だと?
人員が欠けたとどもいうのか、こいつは?
ハンセルは瞼を閉じることを忘れた。
クレディアが誇る一大戦力が、たがだか数万にも満たぬ騎士団しか有さない王国の寄せ集めに過ぎないカルタラ同盟軍に敗退でもしとでも?

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