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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 306

エドゥアールが鋭く呼気を吐き、フローラが気合いに声を荒げた。
そして、ほぼ同時にアルザックを間合いに捉えた二人はエドゥアールは剣の峰で、フローラは柄の裏でそれぞれ首筋と鳩尾とを打つ。
声なき悲鳴を上げたアルザックは唇の端から泡を噴き、崩れるように組み木細工のような模様のタイルの床へと倒れた。

「それ、いまだぞ諸君!」

「はいっ」

勝利の高揚のためか調子のよいフローラのかけ声に三人の近衛騎士たちが遅れながらも悶絶したアルザックへと殺到――手錠、足枷、猿轡と捕縛していった。
……いささか、貴人に対する心遣いの足りない仕打ちのようにも思えたヘルシオだったが、本能的なナニかに従い口を噤んでいることにした。

「――で?ヘルシオはなにしたの?」


衛兵に捕まったこそ泥のほいがいささかマシなんじゃないのかと思う程度には恭しく四肢を縄に繋がれたアルザックを一瞥、なんだかウキウキと血色をよくした頬のフローラへと顔を向けたヘルシオは気負わないよう努めてにこやかに返した。
……苦笑いにしかならなかったのは自身でもわかっている。

「『無音』です。風の系統の初等魔法で、本来ならば私程度の腕前では殿下に及ぶはずのない魔術ですよ」

「んん?でもさ、」

「ふふっ」

フローラにつられ、ヘルシオもアルザックへ再度視線を落とした。

「彼は私の炎魔法と付与魔法とを警戒していました」

「あっ、なるほど……わかっちゃった。つまり、」

「――そのあまりの警戒心の隙を突いた、というわけか。拳闘のフェイントのように」

「……」

鼻を鳴らして頷いたエドゥアールへフローラが「むぅ」と唇を尖らせて不満の視線で穿った。
けれどもデルマーノ譲りの飄々さで忖度しないエド。
そんな二人へ微笑を送りながらヘルシオは杖を腰紐へと吊した鞘へと納め、そして、目を細めて天井を見上げた。

「これで私たちの仕事は完了です。そろそろ、他の所も、ね……」

近衛の戦力を用いればエリーゼの身の安全は言わずもがなだろうし、デルマーノやシャーロットなど心配するだけ気が無駄になるだけだ。
そして、城から貧民街を通過しての都外、国外への退避路の確保も自分たちで持ってきた話しなのだ、ジルやマリエルも上手くやっていることだろう。

ヘルシオは事態が一先ず落としどころへ辿り着くことのできた安堵の息を漏らした。

それはきっと彼以外も、シュナイツ勢ならば皆、思ったことだろう。
大陸でも最大級の戦力が何人もいるこの隊に誰もが無根拠ながらも安心していたのかもしれない。



だが、この時、すでに事態は彼らの思いもよらない速度で動きだしていたのだ。
大陸最強を自負するクレディア王国の権謀によって……。



「――お待ちしておりました、将軍」

「ふん」

幾枚もの鋼を組み合わせて打たれた堅固な黒甲冑を纏った偉丈夫が鼻を鳴らした。
クレディア軍、ウェンディ国境に展開された前線本部の天幕――その内で幾人もの将軍が並び座る最奥にいることから、また、その身から放散させる威圧感と絶対の自信とが、この男を歴戦の勇者であり、軍を統べる者であることを周知しらしめていた。
そんなクレディア軍主要将軍、『白狼』騎士団団長ハンセル・イクスカンドが厳しく見つめる先では、黒導衣を頭からすっぽりと被った男か一人、片膝を付いて畏まっている。
ハンセルが自軍を一回りして兵たちを鼓舞して戻ってきたときにはすでにその体勢だったその男。

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