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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 308

大将軍ともなれば日常、感情の起伏――中でも恐れや驚きを漏らすことは抑制している。
だからこそだろう、こちらの動揺を相手は素直に認めてきた。
「ふっ……」と一笑、ディークが先ほどまでよりも一層冷めた声音で続ける。

「貴方の戦略は崩壊していますよ、もう。すでにほとんどの戦線で決着しています。もちろん、優勢なのは――」

「し、失礼いたしますっ!」

その時だった、天幕に上級士官が飛び込んできた。
伝令部の部隊長である。その顔は蒼白で、その様相はディークの話しを裏付けるには充分であった。
他部隊の将の姿に不躾な視線を一瞬、すぐに部隊長はハンセルの下へと駆け寄ってくると耳元で報告をしてきた。
小声で囁くその所作はディークの存在を意識してのことだろうが、彼が口にした内容はすでにディークから伝え聞いていたものなのだから道化まがいにしか見えなかった。

「ふん、そうか……さがれ」

もし、覚悟なく部下たちの惨状を耳にしていれば、先のディークへの反応をこの男にしなければならなかったのだろう。
冷淡なこちらの返事に一礼、天幕を出ていった部隊長に将軍としての模範的な印象を与えられたことは幸いと受け取ることにした。
「……それで、貴殿は何をしようと?ここに来た以上、目的があるのだろう?」

「ふむ……ああ、いえ。我らの目的は既に言っているでしょう?力をお貸しします、とね」

そうだった。
当初からこの男はそう言っていたではないか。
あまりに馬鹿らしく、その時は鼻で笑っていたものの、現状を把握した今となってはこの提案を退くわけにはいくまい。
もちろん、戦力をすべて注げば勝利は約束されたようなものだ。
しかし、この度の戦闘の意味はウェンディ王都を陥落させることではなく、カルタラ同盟への宣戦布告とその盟主であるシュナイツ王国の王女の身柄にある。
ならば、やはり、このままでは……。

「――すでに貴殿らの手の者がウェンディへと向かっているのだろう?……いや、すでに侵入に成功しているのか?」

「か、閣下っ?」

「っ!」

「ぁ…………い、ぇ……」

将軍の一人が頓狂な叫びを上げたが、それをハンセルは眼力で一蹴した。
そんな他部隊の幹部らの醜態が可笑しいのかディークが忍び笑いを漏らす。

「ふっ、ふふふ……いやはや、ご慧眼であられますね、将軍?」

「ふん。して、いかにするのだ?我らに何をしろと?」

「ふぅむ……。そう難しい話しではないのですよ」

ふふふっ――、とディークは続けた。

「すでに我が方の精鋭がウェンディに潜伏しております」

「な、なんとっ?そんな独断――」

「よい。少し黙れ、貴様は」

ハンセルは、酷なことと思いつつも、部隊思いの将軍をたしなめた。
視線だけで、魔導師の男へとその後を勧めかける。

「しかし、我ら――偉大なる我が師父にも誤算がございました。シュナイツが第一王女も、また面倒な相手を同伴させたものでして……」

「エリーゼ王女か。ふむ。かの近衛隊長の腕は我らも聞き及ぶところだ。カルタラが至高の剣――ワイス家の次期頭領と目される女傑か」

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