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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 276

薄い扉を開け、入ってきたのは今朝方挨拶を交わしたばかりのデルマーノの幼なじみ――なぜか侍女服姿のマリエルと平素な格好のエドゥアールであった。
エドの手には双剣が握られ、生々しい血糊がべっとりと付着しており、アリアは何があったのかを察する。
おそらく、侍女に化けたマリエルがエドを詰めたワゴンを押し、この部屋へと侵入を心みたのだろう。
しかし、邪魔が入り――ということだ。
しかし――

「な、なぜ……」

「質問は受け付けない」

アリアへ冷たくそう言ってくれとエドゥアールが口早に話しはじめた。


「この街の北部、三里も行った所にだろう――クレディア軍が展開している」

「クレディア?……ば、ばかな!ここはウェンディの王都だ――」

「だまれ。質問は受け付けないと言った」

「っ――」

エドの一瞥に、アリアの同僚――三十過ぎの女騎士が口をつぐんだ。
「ふっ」と爬虫類を思わせる面立ちの青年が続けた。

「ウェンディ軍が気づかないわけがない――か。そうだ、この国の首脳部は気づいている。クレディア軍が国境線を越えてきたこともな。……いいや。正確に言えばちがうか。手引きしたのだからな、この国は」

「手引き?自分の国に侵略する?」

「侵略じゃない。同盟――だろうな、きっと。そして、それは同時にカルタラ同盟からの離反を意味している。カルタラ同盟の盟主の娘を手中に納めた状態での、な」

「む、謀反っ?」

アリアは思わず叫んだ。
けれど、それは皆の脳裏にだって浮かんだはずである。――エドゥアールの言葉を信じるのであれば、だが。
アリアやヘルシオ、フローラは信じている。なにせ、デルマーノの義兄弟だ。
しかし――


「待てっ!なにを言っているんだ貴様はッ!」

ひとりの騎士が怒声を上げた。
去年、入団したばかりのまだまだ少年と呼んでもいいほどの若い騎士である。
少年騎士がその黒髪を揺らしてエドゥアールへと詰め寄った。

「そもそも、誰なんだ貴様っ?身分を空かせッ!」

「……己の名はエドゥアール。ただのエドゥアールだ。この街の貧民街の一部を取り仕切っている者だ」

「奴隷っ!――っ?」

少年が息を呑んだ。
首筋に対の双剣の刃が当てられたのだから、当然の反応である。
その双剣の主――エドは剣呑な眼差しを光らせて言った。

「元、奴隷だ……」

「っ……」

こくんこくん、と騎士は首を上下に振った。これでは近衛もかたなしである。

「貴様らの選択肢は実に単純だ。己を信じるか、ウェンディ王家を信じるか――」

そこまで言ったエドゥアールが、言葉をきった。
じっ、と窓の外を覗いている。
アリアも倣って、北西に向いた填めごろしを見つめた。

「……なに?」

キラキラと遠くの空が輝いている。
薄暗い曇天が背景のため、嫌でも目についた。

「――デルマーノさまとシャーロットさま、そして、アルゴです」

「えっ?」

背後――エドゥアールのいるほうから声がかけられた。
見れば、そこには侍女服の金髪エルフ――ジルが立っていた。
そのメイド服のロングスカートには生々しい血痕が付着している。

「ジ、ジルッ?」

「どうせこんなことになるだろう、とデルマーノさまが仰ってましたのでわたくしが同行いたしました。まさか、このデルマーノさまの従順なる僕であるわたくしまでお疑いにはならないでしょう?」

台詞の後半はアリアの周囲――エドゥアールやマリエルの存在を知らない近衛騎士たちへと向けられたものだった。
たしかに、一度交戦経験のあるこのエルフ吸血鬼の正体を知らぬ者はさすがにいない。
なにせ、彼女と相対したとき、第一王女付き近衛騎士全員がその場にいたのだから。
そして、みな、ことの結果――デルマーノに従属化したこと――も知っている。

「わかっていると思いますが、一応。この方たちの言葉に嘘偽りはいつわりはございません。正真正銘、デルマーノさまの義兄弟でありますし、クレディア軍がそこまで来ています」

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