元隷属の大魔導師 265
「んあ」
「シャーロットたちも一緒に、花も摘んできて……あっ、この時期に咲いている花ってあるかしら?」
「ンなもん、マリエルにでも聞け。あいつは本業なんだからよ……。つか、楽しそうだなオイ」
「違うわ、デルマーノ……」
アリアは、くすりと笑う。
「楽しいんじゃないの。嬉しいのよ」
「嬉しい?」
「そう。仮にも、あなたのお母さまへの挨拶なんだから。伴侶として嬉しくないわけがないじゃない」
「へっ……。だったら、シャーロットあたり連れてきたら、お袋、あの世で卒倒するだろうけどな」
「もう。また、そんな……」
アリアは微笑んだ。
照れたのだ、デルマーノは。
「んじゃ、帰っかな?そろそろ、奴らも目を醒ましてるかもしんねェしよ」
「奴ら?……ああ。シャーロットとジルね」
「あいつら、放置されると本当に面倒くさくなっからな――……」
「……――ああ。ンとに面倒くせぇ」
デルマーノは、小さく嘆息した。
目の前ではメソメソと泣くシャーロットとジル。
「寝てる間に捨てていくなんて、お兄ちゃん、酷いよぉ……」
「ンど言わせる気だ?違ぇよ」
「珍しく、わたくしも連れていくと仰ったのはこのため……」
「だから違ぇってんだ」
「わたしなんて一緒に、デルマーノのお母様のお墓に参ってきちゃった。夢の世界に行っちゃったあなたたちを放っておいてね?」
「「っ――」」
「ア〜リ〜ア〜っ!火に油どころか、山火事に大火球だぞ、それはもうっ!」
「ふふっ」
息を呑むふたりの吸血鬼と、また一歩、死地に追い込まれた自分を見つめ、アリアが悪戯の見つかった子供のように、くすりと微笑んだ。
存外、負けず嫌いなのだ、アリアは。
「ううぅ、お兄ちゃんがイジメるぅ……」
「嗚呼。酷いです、惨いです、デルマーノさま……しくしく……」
「本当に面倒くせぇ連中だなっ!?」
がーっ、と耳にかかるほどのクセのある黒毛を掻き乱すデルマーノ。
そして、そんな感情的になった状態のデルマーノは、思わず失言をしてしまう。
「ったく!どうしろってんだっ!」
「っ…………」
その一言を受け、いまのいままでグズグズと鼻をならしていたふたりの吸血鬼らは、互いに顔を見合わせて、
「ね、ジル?」
「はい、シャーロットさま」
にやりと、その種族に見合った露悪的な笑みを浮かべてきた。
デルマーノは溜まらぬ、嫌な予感を覚える。
「ねえ、お兄ちゃん?」
「な、んだ?」
ひくり、と頬を強ばらせるデルマーノ。
密かに視線を巡らせてみると、すでに出入り口への道のりにはジルが遮るように移動していた。
いらん時にだけ、素晴らしい連携を見せる連中である、本当に。
「どうしろって……どうすればいいか、教えてあげよっか?」
身長差のためだけだと信じたい、上目遣いのシャーロットが、じわりじわりと距離を詰めてきた。
デルマーノは半歩、身を下げつつ、首を振る。
「いや、いい……」
「そんなこと言わないでさぁ〜」
「いいつってんだろうが。なにを言いてぇか、大体、わかる」
「わあ?以心伝心?」
「だと、よかったんだろうけどな……」