元隷属の大魔導師 231
「――ふふっ♪」
「んぁ?」
杯を煽ろうとしたデルマーノがその動作を中断し、チラリと見てきた。
小さく漏れた笑い声が気になったのだろう。
「どうした?」
「ん?なんでもないわ。ただ……貴方は貴方。デルマーノってだけよ」
「んなこと、知ってんが……」
「んもぅ……そういう意味じゃなくてね――」
アリアは唇を尖らせるとソッとデルマーノの左手に己の右手を重ねた。
一瞬、ビクッと反応したデルマーノだったが、すぐに指を絡ませる。
「イヒッ……」
「……?なに?」
「なんでもねぇよ。ただ、アリアはアリアだってな?」
「あっ……もぅ、ずるいわ」
「ヒヒッ……」
「きゃっ」
頬を膨らませ、抗議するアリアを引き寄せた。
同時にデルマーノ自身はテーブルの縁を滑るように身体をずらし、引き寄せられたアリアを全身で受け止める。
そして、突然のことに小さく悲鳴を漏らすアリアの唇を己ので塞いだ。
「んっ……むぅ……」
触れるだけの接吻。
たったそれだけのことで脳髄がジンジンと痺れた。
アリアはその大きな瞳の双眸をキュッと閉ざし、デルマーノを受け入れる。
腰に腕が回される。
左腕だ。
他の人間がどうか知らない。
しかし、デルマーノの左腕――元隷属の証しを刻まれたその腕に包まれた感動をアリアは言葉にすることができなかった。
力強い抱擁、熱い接吻――私とデルマーノにこれ以上なにがいるというのだ。
アリアは胸の内が酔いとは別の由来で燃えるのを感じた。
「んちゅ……ふぅ、む…………あむ……」
デルマーノの細長い舌がアリアの唇の間へと忍び込んだ。
歯茎をなぞり、唇の内を這い、舌へと絡んでくる。
ゾクリ、とアリアの背筋に電撃が走った。
最近はこの『性感』を覚えることに抵抗がなくなってきている。
正直、いくら品性だなんだと偉そうなことを言ったって人間も動物でしかないのだ、気持ちが良い――その感覚は否定する意味がないものだろう。
特にデルマーノを見ていれば、そう思ってしまう。
なにせ、彼は知性が高く、多彩な感情を持った野獣だ。
なにに対しても素直なのである。
まぁ、ひねくれ者ではあるが……。
「んむっ?……ふっ……んぁ、ちゅ――もぅっ」
アリアは頬を赤く染め、俯き加減で拗ねてみせた。
腰を抱いていたデルマーノの腕が下げられたのである。
そして、逡巡もなく臀部を撫で回される。
まぁ、胸鎧で胸は触れないからだろうけど――積極的なことだ。
腰から股への鎧の間から腕を滑り込ませ、サワサワと這わせる。
アリアは真っ赤に成りながらも、止めはしなかった。
「んっ、むぅ……ぁ、ふむ……ちゅる……ぅ……」
上では口内を、下では尻を攻められ、アリアの中で点った火種が瞬く間に燃え上がる。
背後でパチンッ、と音がなった。
胸鎧の留め具が外されたのだ、と悟ると同時に鎧がはがされる。
内なる『品性』という鎧も共にだ。
「んっ、ひゃんっ?」