元隷属の大魔導師 222
デルマーノの一喝に酒場がシンと、鎮まった。
そんな一同を見回すデルマーノ。
「――ッ!」
そこでようやく、アリアとフローラの存在に気が付いたようだが、構わず、騎士たちへと視線を戻した。
「てめぇらは言ったよな?奴隷がなんで酒場にいるんだと……んで、俺に酒を引っかけた。そこまでしても、俺がなにもしないと思ったのか?なにをしてもいい、自分らにゃ逆らうことはない、人間以外の存在だと、そう思ってんのかッ?ああ!?」
デルマーノはそう怒鳴ると床に忘れられたように落ちている騎士たちの長剣を一本、拾い上げた。
ヒュッと振り下ろして重さを確認すると地面に垂らすように自然体に近い構えをとる。
「……これじゃ、なんの為に死んだんだ?」
「なんだと?」
「ソフィーナの死を無駄にしてくれるなよ、カス共がっ!死んで、あの世で詫びるが良い!」
「ちょ、ちょっとま――」
デルマーノは目を見開いて、長剣をスゥゥ、と掲げた。
騎士たちや見物人の間に畏怖と緊張が走る。
限界だ、とアリアが止めに入ろうとした、その時――、
「そこまでにしろ、馬鹿者ッ!やり過ぎだ!」
「ッ?」
酒場の出入り口、アリアのすぐ背後からの声が制した。
アリアとフローラは揃って振り返る。
そして、これまた同時にそれぞれの驚愕の表情を浮かべた。
「……ジジイ」
そして、デルマーノは茫然とその呼称を呟いた。
そこに立っていたのはデルマーノの師にして大陸最高の魔導師『六大魔導』の一人――『紫水晶』ノーク・ヘニングスであった。
外に倒れていた騎士を右手の平で顔面を掴むように引きずり、連れている。
失礼を承知で言えば痩せこけた、と形容したいシワだらけの顔に付いた三白眼でデルマーノを睨むと言った。
「この馬鹿弟子が。何をしている?さっさと剣を捨てろ」
「ああ?…………ちっ」
デルマーノも切れ長の瞳で睨み返したが、しばらくの無言の会話をすると手に持った長剣を床へと再び、放り捨てた。
ガチャ、と重たい金属音の後、ノークは静かに告げる。
「……宮廷で、おまえがエリーゼ姫の護衛としてウェンディへ行くことを知った。嫌な予感はしたからの、捜したのだが――まさか、酔って暴れているとはな」
「ふんっ……よく、見つけられたな?この『増大の腕輪』があるってのによ」
「……増大?」
師弟の会話へと耳を傾けていたフローラは聞き慣れない単語に首を傾けた。
そんな親友へアリアはデルマーノの着けた腕輪の効力について、そっと説明してやった。
その間にもデルマーノとノークの会話は進んでいく。
「簡単じゃよ。家に帰っていないならば、この通りで飲んでいるはずだからな。一番、騒がしい店に行けばいい」
「はっ……」
「して……デルマーノ。おまえは何をやっているんだ?いくらおまえでも度を超しているぞ?」
「…………」
「ふん。まぁ、予想はつく。どうせ、この小僧どもがおまえに奴隷だなんだと悪態吐いたのだろうて」
沈黙する一番弟子へとノークは続けて言った。