元隷属の大魔導師 22
「とにかくっ!アリアは十分に可愛いんだからさぁ、もっとこう…ダァ〜っと………」
フローラは尚も続けるようなので、アリアは無視する事に決める。
ふと中庭に目を向けた時、女騎士と宮廷魔導師が視界に入った。
二人共、アリアが知っている人物である。
「隊長……とデルマーノ?」
間違いない。あれほど体格の良い宮廷魔導師は同盟国家群中を探してもそうはいないだろう。
アリアの呟いた固有名詞にフローラが反応する。
「どこ?アリアの想い人は何処に?」
アリアはしまった、と思ったが誤魔化しようがなかった。
「…あそこよ」
「ヒュ〜♪隊長と一緒じゃん。行こ行こ!」
アリアは殆ど引きずられる形でフローラに中庭へ同行させられる。
「…エーデル隊長〜♪」
フローラは齢三十を迎えた頃であろう軽装鎧の女性を呼んだ。
彼女は近衛騎士局第一王女付の隊長である。
温和な雰囲気を顔立ちに聖母のような笑みを浮かべる女性だ。
しかし、まだ若いながらも幾つもの武功を重ね、現在の地位に着いた彼女は近衛騎士局最強の女であった。
「あら……フローラさん、アリアさんも。訓練は終わった様ですね…」
おっとりした口調のエーデル。
これがいざとなると一変するのだが、それは別の話し。
「隊長。彼は何者でしょうっ?」
分かってるくせにあえてフローラは尋ねた。
「あぁ、そうね……アリアさんはご存知でしょうけど、彼は『紫水晶』様の弟子で新しく宮廷魔導師団に入団したデルマーノさんです」
「若輩者ですがよろしくお願いします」
ニッコリと笑い、フローラと握手を交わすデルマーノ。
昨日も言っていたが、本気で慇懃な態度を取り続けるようだ。
よろしく〜とフローラは握手したが、彼女はアリアも抱いていた疑問を口にする。
「でも、なんで宮廷魔導師さんが近衛騎士局に?」
「彼は……近衛魔導隊の隊長に任命されました。ですから、私達の同僚になります。仲良くして下さいね?」
「近衛魔導、隊……」
「隊長、それってっ」
アリアとフローラは二の句が出なかった。
近衛魔導隊とは近衛騎士局の部署の一つである。文面だけで受け取るのであれば、そこの隊長に任命されるという事は相当な出世となる。
しかし、文官である宮廷魔導師が武官の中でも選りすぐりの近衛隊に加わるため、その実体は窓際部署となっているのであった。
隊長とは名ばかりで隊員は一人もおらず、それまでも十名以上が配属され、数週の内に辞めている。
デルマーノがこの部署へ飛ばされたのはやはり、出自が関係しているのであろう。
汚らわしい奴隷上がりを伝統ある宮廷魔導局へ一歩でも、踏み入れられたくたいのだ。
「「………」」
「私は局内をデルマーノ新隊長に案内しますので、では……」
女性らしい柔らかい物腰で別れを告げるエーデル。
デルマーノも丁寧にお辞儀をして、建物内へ消えていった。
「…………どうしよう。アリアの男が左遷されちゃった」