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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 211

一旦、帰宅したエーデルとデルマーノは服を着替え、小休憩を挟んだ後に近衛局で落ち合った。
話したいことは互いに山ほどあるのだ。
だが、そこで問題が浮上する。
その日は第三王女ペルティア付きの近衛隊は月に一度の休暇日で、任に就いている者以外は待機者がおらず、また、女王付きの近衛隊は揃って主君セライナの身を案じ、王宮に出向いてたのだ。
つまり――日も沈もうかという、その時刻には近衛局に騎士は一人もおらず、門は固く閉ざされていた。
二人にそう事情を説明した門前の守衛は続けて、門を開けようか?、と訊ねた。

すると、思案するエーデルを余所にデルマーノは即座に断ってしまったのだ。
確かに、近衛局の重厚な門を、たった二人のために開いてもらうというのは効率が悪いと言わざるを得ない。
だが、それでは?、と視線で問いかけたエーデルへデルマーノは街場で一杯飲みながら――と提案した。
そこで、エーデルは逡巡した。
デルマーノとは、……そういった特別な関係ではないのだ。
別に立場の似た、親しい同僚同士で飲むことには誰にも文句は言われないだろう。
しかし、アリア――部下にして、この青年の恋人――に怒られはしないだろうか?
ただ、すでに口に出してしまったのだ、騎士に二言はない。
せっかく集まったのに解散するのも無駄だ、と最終的にエーデルは了承した。
飲食街にある一軒の酒場(歓楽街にほど近い、なかなか庶民的な店だった)に入った二人。
そこで杯を片手に、カルタラやシュナイツのこれから、セライナ女王の容態、そして、デルマーノやエーデルのプライベートなことを若干ながら、話した。
そして、気付けば空も白じみ始めており、船を漕ぐ店主に代金を支払うとそこで二人は別れた。
膨大な知識を有し、聡明なデルマーノとの話しは飽きがこない。
また機会があれば飲みたい、と言うのが正直な感想だ。
だが、これから、この元隷属の魔導師が複雑な立場になるのは目に見えており、そうそう、機会は訪れないだろう、とも思った。


その二日後の朝――王女に率いられていない近衛隊が二隊、王都へ帰還した。
学院関係者たちは置いてきたらしく、なかなかの強行軍だったようだ。
そこで、エーデルはデルマーノとの夜を徹しての酒宴を報告したところ――案の定、怒られた。
しかし、アリアはデルマーノへ懐疑を向けはしなかった。
そんな信頼関係の男女がエーデルは羨ましくなった。
なにせ、自分の許嫁――だった男とは信頼関係もなにもあったものではなかったからだ。


――ただ、一つだけ、アリアにも黙っていたことがある。
それはデルマーノ自身も大して自覚していない感情かもしれない。
彼は、自分の『生』に対して、どこか、見限っているところがあった。
だから、今回のように自身を吸血鬼に捧げる、などという荒業ができるのだ。
エーデルに――いいや、騎士にとってはありがたい能力かもしれない。
殉職に恐怖を感じないからだ。
でも、一人の人間。
例えば、恋人がそのような者だったならば――。




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