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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 210

メルシーは半ばヒステリックに叫んだ。
しかし、それも仕方ない――とその第二王女付きの近衛隊長を目の端に入れながらエーデルは思った。
まるで、リドルでもかけるかのようにデルマーノは情報を小出しにしていくのだ。
どれもが、真実なのだろうが、決して正解ではない質疑応答。
さらには己と主君の命までかかっているのだ、メルシーの精神疲労は相当なモノだろう。
ただし、それもこのデルマーノの返答――これで最後だ。
そんな予感がエーデルにはあった。
デルマーノは歯を小さく見せて「イヒッ」と漏らし、口を開いた。
身構えるメルシーと事態を静観するしかないミルダに蕩々と告げる。

「……俺は今の職に就いてから、調べてみたんだ。二十年前から十年前までの、すべてのシュナイツ貴族の金回りをな。メルシー・アイントレック――おまえの父は十四年前の、ある日を境にして、ワイン、骨董品、武具、鎧兜……いろいろな物品を買い集めているよな?まるで、なにか――金をつぎ込めなくなった『なにか』の代わりのように……」

「十四年、まえ?…………いや、しかし、そんな……理由、で?」

メルシーだけでなく、エーデルやミルダも事情を把握した。
デルマーノがもたらした情報が正しいのであれば、アイントレック伯爵は奴隷関連の何か――たとえば、そう、奴隷闘技場のようなモノに大金をかけていたのだ。
しかし、それは世間的には責められることではなかった。
もし、責めれば、自身の行っただろう、奴隷迫害も追及されなければならないからだ。
糾弾できるのは、隷属を強いたことのない聖人君子か――奴隷自身だけである。
そして、元奴隷のデルマーノは怒りや憎しみ、そして若干の悲しみだろうか、多々の負の感情を込めた瞳にアイントレック伯の息女、メルシーを収めた。
アリアからデルマーノが幼少時代、奴隷闘士であったことを聞き及んでいたエーデル。
自分を彼の立場に置き換えてみると、メルシーやアイントレック伯爵、そして、すべてのカルタラの民への憎悪で堪らなくなった。
その民は――すなわち、自分だ。
頬に冷たい血流を感じ、とっさにその頬を抑えた。

「ヒヒッ……『そんな理由』で俺はこの国の人間が許せないんだ。小さい人間、だろ?」

デルマーノはその言葉を最後に視線を進行方向に向け、口を噤んだ。
だが、エーデルは背後に座るメルシーの動揺が手に取るようにわかった。
彼女の動揺の由来は、実父が奴隷商売に関わっていたから――ではない。
きっと、デルマーノの――元隷属の者たちの誇りの高さに驚愕し、わずかな畏怖を覚えたのだろう。
心が認めてしまったのだ。
奴隷出身者を、自分たちと同じ人間だと……。


それから、数時間後――なんの会話もないまま、邪竜アルゴに乗った一行はシュナイツ王宮へと辿りついた。
エリーゼやミルダを女王セライナの寝室まで見送ったエーデル。
その後、何度かデルマーノに声をかけようと口を開きかけるメルシーを目撃したが、結局、一言も会話せずに解散した。

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