元隷属の大魔導師 198
「ヘルシオ君……その、さ。いろいろあったから聞く機会がなかったんだけど……ほら……ね?」
「へ?……え、と――はい?」
ヘルシオとフローラは俯き合い、互いに言葉を濁す。
しかし、数瞬をおいてヘルシオはこの陽光を綺麗に反射させる金髪の女騎士が言いたいことを理解した。
ならば、と意を決して口を開く。
「そ、そのっ……勢いで、あの……か、関係を持ってしまいましたが、私は――フ、フローラさんが好きですよ?」
フローラは元王族の魔導師に面食らったように硬直した。
だが、すぐに返事をする。
「あはっ……あはは。わ、私もね、その……ヘルシオ君が……す、好きよ」
「そ、そうですか……じゃ、じゃあっ!……あの、お……おお、お付き合いして、いただけますか?」
「…………うん」
ヘルシオが頭をかいて、照れながらも必死に想いを告げた。
フローラはその自信なさげな台詞に両手を絡ませ合い、頬を赤く染める。
そして、小さく頷いた。
ヘルシオの表情がぱっと明るくなった。
「……んっ」
フローラはそっと右手を差し出す。
首を傾げるヘルシオへはにかんで言った。
「……記念の……握手」
「は、はいっ」
未だに疑問符を浮かべながらもヘルシオは慌てて、シャツで手の平を拭くと差し出されたフローラの右手を握り締める。
その瞬間、若き女騎士の瞳がギラリと輝き、繋いだその手を目一杯、引いた。
「おっ、と……ふ、フローラさん、なにを――んっ!」
いきなり、手を引っ張られたために体勢を崩したヘルシオはフローラにぶつかる寸前のところでふんばり、なんとか持ちこたえる。
そして、ふと顔を上げるとすぐ目の前には告白を受け入れてくれたばかりの女騎士の端正な顔があった。
さらに近付くフローラの唇に己のソレを塞がれる。
油断していた近衛魔導師隊の副隊長はあまりのことに目を見開いて固まった。
「〜〜ちゅっ」
数秒間の口付けを終え、フローラはそっと身を離した。
しかし、ヘルシオはとっさに抱きしめ、フローラの行動を防いだ。
そして、今度はヘルシオから唇を重ねる。
「んっ……ふぅ……」
フローラは鼻から息を漏らし、嬉しそうに目を細め、受け入れる。
だが、ヘルシオが舌を侵入させようとしたその時、
「こほんっ!ん、んっ!」
「っ!」
二人の甘い空気を咳払いが切り裂いた。
女性のものである。
ヘルシオとフローラは飛び退いた。
揃って声のした方を見てみると第一王女付き近衛騎士隊長エーデル・ワイスが耳まで真っ赤に紅潮させ、にらんでいる。
「あ、あなたたち……男女の情愛を否定する気はありませんがね――時と場所と他人の目を気にしなさいっ!」
「は、はいっ!」
エーデル以外からの注目を集めていなかったため未遂で終わったが、確かに公衆の場で少し、自分たちの世界に陶酔し過ぎていたようだ。
腕を組み、こめかみを緊張させるエーデルにヘルシオとフローラは頭を下げて謝罪した。
しかし、この近衛隊長の説教は終わることなく、しばらく続いた。