元隷属の大魔導師 20
女王の奴隷解放は貴族や市民、元奴隷の者達の中からも批判の声が聴ける。セライナ自身も悩みの種であったのだろう。
そんな時分、元奴隷であるデルマーノからのこの台詞はセライナを喜ばせるには十分であった。
客間に通されたデルマーノとノーク。
謁見は始終、和やかな雰囲気であった。始めから良かったセライナの機嫌はデルマーノの登場以降、さらに良くなったのだ。
その調子でノーク及びデルマーノの宮廷魔導師団入りの話しはトントン拍子で進み、今日の暫く後に書類一式とマントを女王自ら、下賜する事になったのであった。
「こ、こちらで御寛ぎ下さい…」
まだ若いメイドがたどたどしくデルマーノとノークに言った。まだ勤め始めて間もないのだろう。
「ありがとう、お嬢さん。私達に気を使わなくて良いですよ?」
先程からの調子でデルマーノがメイドを見つめて、優しく囁く。ここだけ見たら非常に好青年な印象を受ける。
「あ、あの……でも不備なく持て成す様、従女長からキツく言われてまして…」
「それなら、私から不備は無かったと言っておきましょう」
「はいっ…し、失礼します」
頬を赤らめたそのメイドはぎこちない礼をし、出て行った。
「……いい加減、その気色の悪いのをやめんか?」
「けっ……あ〜、だりぃなっ。チクショウ」
デルマーノは髪をワシャワシャと掻く。油で固めていたのだ。
「お前は何を考えとるんじゃ。あれが始まった時の儂の驚きといったら…」
「はんっ…アレくれぇオベッカを使えばアチラも満足だろ?実際、速攻で宮廷魔導師団になれたしな」
「しかしじゃ。ずっとアレで通すのか?」
「ああ、人前では……ってちょい、中断な…」
デルマーノは櫛を取り出すと素早く髪を先程までと同じ型にした。
コンコン……カチャ…
「……どうかしましたか、お嬢さん?………なんだ、テメェか…」
デルマーノは態度を一気に崩す。扉を開け、入ってきたのはアリアであったからだ。
「なんだって失礼ね……でもなんで入って来たのが女性だと分かったの?」
「…足音」
床を指差し、踏み鳴らすデルマーノ。小気味良い音がなった。
「ビックリよ、まるで別人だもの…」
「ジジイと同じ事を言いやがる。俺ゃ、王宮内はコレで通すぞ?」
「……なんで?」
「八方美人な青年をしてりゃ、周りはナメるだろ?便利じゃねぇか……」
ヒヒッと笑い、テーブルの上の菓子を食べる。
「………貴方はセライナ陛下を嫌っているものと思っていたんだけど…」
「ここだけの話し…………大っ嫌ぇだ。イッヒッヒッ…」
王宮内でそこまで言い切るデルマーノの肝の座り具合にアリアは恐れを通り越し呆れかえっていた。
「さぁ〜て、慌ただしくなってきたし上品になっかな?」
デルマーノのその言葉から五分後、女王執務室へと二人は呼ばれる事となる。
そんな濃密な二日間から一夜明け……
「ふっ…はっ……てぇっ!」
「参ったっ!」