元隷属の大魔導師 188
しかし、手を繋いで喜び、はしゃぐ二人の吸血鬼を見て「仕方がないか」と胸中で呟く。
それは諦念からによるものではなかった。
「ただし、条件があるからな、クソガキ」
「……?条件?」
「まず、髪を切れ。服装もマトモなのにしろよ。んで、シュナイツの近衛魔導師隊――つまり、俺の部下になれ」
「ええ〜っ、めんどう――」
「いいか?働かざる者は、ってヤツだ。飯を食いたきゃ、働け。ジルは侍女な」
「はいっ。かしこまりました」
嬉しそうに頷くジルの横でシャーロットも渋々と頷いた。
デルマーノはニヤリと笑った。
シャーロットは凄腕の魔導師である。
それこそ、正面からやりあえば自分では負けてしまうほどの、だ。
そんなシャーロットを手元に置くことに損はない。
「んじゃ、行くか?ジルを追って迎えが来ているだろうしな。そう言えば……ジルはアレか?負けたのはやっぱり、ウルスラか?」
己がシュナイツ宮廷魔導師のマントを羽織るのを手伝う吸血エルフメイドにデルマーノは訊ねてみた。
その無邪気な問いに瞬間、ジルは笑顔のまま硬直したがデルマーノの首にマントを巻き終わると伏し目がちに答えた。
「……その、違います。騎士に負けました。デルマーノ様と一昨日の晩、ご一緒だった……」
自分を敗北に追いやったあの赤毛の女騎士がデルマーノの恋人であることはなんとなく分かっている。
女の勘というヤツだ。
そして、デルマーノの愛の対象として彼女に負けているのは諦めが着く。
が、戦闘能力までも負けてしまっているのだとしたら、正直、悔しくて堪らなかった。
「そうか、そうか……イヒヒッ、アリアがね……ヒッヒッ」
楽しそうに笑うデルマーノを見てジルは悲しくなってしまう。
「まぁ、気にすんなよ?」
「はい?」
ジルは思わず聞き返してしまった。
恋人の勝利を喜んでいるだろう、と思っていたデルマーノのその台詞がジルには意外だったのだ。
「おまえな……どうせ、ヘルシオ――俺の弟弟子が張った結界で魔法が極端に制限されていたんだろ?勝敗は決したがな、だからってジルが弱いとは思わねぇよ。分かったらそんな顔はすんな」
「……はいっ」
マントを羽織らせたままの格好だったため、すぐ目の前にデルマーノの身体があり、感激したジルは思い抑えられず、抱きついた。
「ぅお?」
二人の身長差は頭一つ分ほど。
抱きつくとき、デルマーノの肩に頬を乗せると具合が良かった。
ジルは目を細め、くすぐったそうに笑う。
ただ、身体が触れ合うだけでこんなに幸せになれるなど、つい昨日まで考えもしなかった。
「ジ〜ル〜ッ!ず〜る〜い〜っ!」
シャーロットは自分の主と従者の抱擁を目に、頬を膨らませると自分も、とデルマーノに抱きついた。
ジルよりも遥かに背の低いシャーロットはデルマーノの胸部辺りまでしか身長はない。
しかも、デルマーノは背を向けているためマントが邪魔をし、あまり心地良くはなかった。
「むぅ〜〜っ」