元隷属の大魔導師 155
『今はまだ、貴方は奴隷街から出る事はできないけど……今ね、シュナイツ王国のセライナ女王を中心にカルタラ同盟国家群から奴隷制を撤廃しようとする動きがあるの。もちろん、私も――そして、教会も賛同しているわ。それでね、もし、奴隷が解放されたら……私の父に会ってみない?』
『あぁっ?俺と結婚でもするのか?』
幼少のデルマーノはそう言うと『イッヒッヒッ……』と喉の奥で笑った。
ソフィーナは少女のように唇を尖らせるとデルマーノを再び、軽く小突く。
『こ〜ら、大人をからかわないの』
『ヒヒッ……それで?』
ソフィーナは断られたらどうしよう、と躊躇いがちにデルマーノへ尋ねた。
それは彼の人生を大きく変えるキッカケになった一言だった。
『デルマーノ……魔導師になってみない?』
『ッ?――んな、ななな……』
デルマーノはこの時の己の感情を容易に思い出す事ができた。
始めは何を言われたのか分からず動揺した。
次に魔導師と自分との関係性を必死に思案したが思い浮かばず、困惑したのだ。
ソフィーナはそんなデルマーノの反応がよほど可笑しかったのだろう、クスクスと口に拳をあてがって笑っている。
『ふふふっ……私の父は魔導師なのよ。シュナイツ王国からちょっと離れた塔に引きこもっちゃっているんだけれどね。だから、もし貴方が魔導師になりたいって思ったら私に言ってね?』
『……なんで、俺なんだ?』
幼い自分はソフィーナの意図が分からず、眉を潜めて疑問を口にした。
しかし、ソフィーナは然も当然のように間髪いれずに答えた。
『言ったでしょ?貴方は賢いからよ。それこそ、シュナイツ王国の学院に通う貴族の子息たちなんかよりずっとね』
ソフィーナはデルマーノの頬に触れると言い聞かせるように話す。
他には何の根拠はなかったが彼女にそう言われると本当に自分が賢い気になってきた。
デルマーノは頬に感じる温もりの心地よさに胸の辺りが熱くなる。
そして、そんな自分に内心、驚きながらもソフィーナに答えた。
『俺は……魔導師になりたいとは思わない』
『…………』
ソフィーナは当然の如く、黙って続く言葉を持った。
その希望に沿うようにデルマーノは続ける。
『……でも、俺は自由になりたい。いや、俺だけじゃなく――俺を頼る全ての人間を、だ。その自由を手に入れるために魔導が必要になるかもしれない。だから……』
『だから?』
『もし、可能なら……魔導を学んでみたい』
その答えを聞いたソフィーナは嬉しそうに微笑み、デルマーノを抱きしめた。
デルマーノは清潔とは言い難い己の風体のため、ソフィーナから離れようともがいたが彼女の腕から逃れる事はできない。
その内、抵抗するのも馬鹿らしくなり、大人しく身を預けた。
『デルマーノ、確かに貴方は賢いわ。でも、それ以上に優しい。いつも、事へ斜に構えているけれど……本当は他人を救おうとする優しい子。だから――――』
「っ……?…………??、ここは……」