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元隷属の大魔導師
官能リレー小説 - ファンタジー系

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元隷属の大魔導師 143

昨晩の戦闘でこの吸血鬼はデルマーノの槍の投擲を同じく左腕で防いだのを思い出し、アリアはジルの持つ長剣に意識を集中させる。

――――フォンッ!

風を斬り、己の首を薙ごうと迫る剣先を半歩下がりかわすとアリアは長剣を空振った反動でバランスを崩したジルの右肩へと刺突を打ち込む。
しかし、それは剣の軌道上に割り込んだジルの左手に止められた。
左手に剣を突き刺されたジルは表情一つ変えずにそのまま、その手に力を入れる。
攻撃に失敗し、一旦、退こうとするアリア。しかし、剣をジルの力んだ左手からは抜けなかった。
バックステップを踏んだアリアは虚を突かれ、歩を止めてしまう。
そこはジルの間合いの内側だった。

「ふんっ!」

「くっ……風よっ!」

体勢を立て直したジルが振り下ろす剣を睨み、アリアは所持する剣に付与された魔導を発動させる。

――――ヒュッ

「んっ、つぅ……」

アリアの魔導剣は突き刺さったジルの左手を巻き起こした風の力で内側から吹き飛ばした。
ジルは激痛に思わず、呻く。
その一瞬の隙を付き、アリアは十歩ほど跳びすさった。

「………………ふぅ……」

「ぐっ……くぅ…………あぅぁ……」

ジルの左手から滴り落ちた大量の血が溜まりになっていた。
今の隙を付き、ジルへ攻撃出来たかもしれない。
しかし、そんなアリアの脳裏にウルスラの忠告がよぎった。
それは吸血鬼の攻撃を絶対、受けてはいけない、というモノであった。
アリアはこれでも女騎士だ、男女の筋力差を覆す術を持っている。だが、先程見たジルの一撃でウルスラの言葉を理解した。
吸血鬼と人間の力の差は別格であった。
アリアはあの一瞬で確実にジルを倒せる確信を持てなかったのだ。

「つぅっ…………やって、くれましたね……」

ジルは忌々しそうにアリアを睨んだ。
それも仕方がないだろう、二日連続で自分より遥かに劣っていると思っていた人間に同じ箇所を穿かれたのだ。
ジルは虫くらいなら殺せるのではないか、と思うほど恐ろしい殺気を発した。

「……、……、……すぅっ」

アリアはそんなジルにも動揺せず、呼吸を整えると再び剣を構えた。
今度は中段の構えである。
一方、ジルは使い物にならない左腕には一切、気を向けず、右手に持った長剣にのみ集中した。
切っ先が床に付くくらい低く構える。

「…………はぁあぁぁっ!」

「…………んぅっ!」

アリアは渾身の力を込めようと声を張り、中段から右斜め上段に振りかぶって間合いを詰めた。
ジルはそれに答えるように鋭く息を吐くと剣を下から上へ、技もなにもあったもんじゃない、純然な右腕力のみで振り上げる。

――――ガッ!ゥゥン……

アリアはジルの剣先に合わせ、己の魔導剣を鉤針でも描くように捻った。
自身の技術と付与された風の魔法の全てを込め、圧倒的な圧力を持つ刃をいなす。
一瞬の技と力の攻防。軍配はアリアに上がった。

「なっ?……ぅっ」

ジルは信じられない、と弾かれ、虚空を舞う己の長剣を見つめた。

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