元隷属の大魔導師 15
エリーゼとバストサイズの話しをすると確実に不機嫌になるためアリアは湯を浴びようと話しを逸らした。
レベッカは部屋の隅にバスタオルの仕舞ったクローゼットがある事を教えると退室する。
「姫様、湯浴みにいきましょう?」
「……私は後で行く」
先程の話題を未だに引きずっているのだろうエリーゼは胸を悲しそうに見つめて言う。
「そうですか。では、私は先に行ってますね…」
エリーゼがこうなってしまうと暫くの間、機嫌は戻らないので先に浴室へ向かうことにした。
地下に着くと成る程、目の前に浴室の扉がある。
脱衣所に入ると一刻も早く、汚れた身体を綺麗にしたいと美しい肢体を露わにしていった。
その時、もう少し辺りに気を配っておけば見逃さなかっただろう。
男物の服が籠に入っていることを……
ガチャ……
「わぁ……家よりも広いかも」
アリアは浴室への扉を開け、その広さに感嘆の声をあげる。
「……?」
石造りの湯船を見渡すと黒い塊が目に入った。
その端正な細面は呆れた黒い瞳でこちらを見ている。
「よう、堂々とした覗きだな?」
「…っぁ……きゃああぁっ!」
それが湯に浸かったデルマーノだと気付いたアリアはダッと駆け出し、脱衣所へ逃げ込む。
「…はぁ…はぁ……」
息を整えるとそろりと顔だけ脱衣所から覗かし、アリアは尋ねた。
「…な、なんで……デルマーノがいるの?」
「俺が俺の家の風呂に入っちゃいけねぇのか?」
「それは、そうだけど…」
「なんだ、入らねぇのかよ。その格好だと風邪ひくぜ?」
アリアとしては自分の裸を見られたのだ。デルマーノに少しは動じて欲しい。なのに平然と会話する彼に沸々と怒りが沸いてくる。
「……入るわっ、入るわよ!」
タオルで身体を包むと浴室へ再度、足を踏み入れた。
自分が何故、こんなにも苛立つのかは分からないが、やはり男性に肌を見られるのは恥ずかしい。おそらく顔は耳まで赤く染まっている事だろう。
湯口から温水を桶で掬い、身体にかける。髪を洗い、身体に付いた埃を流す、その一連の動作中、背中から視線を感じていた。
アリアはニヤつくデルマーノを睨む。
「…何よっ。興味ないフリして、この……」
「ヒッヒッ…気が強ぇ女ってのは面白ぇな。喋り方、素に戻ってんぞ?」
「あぅっ……だって、じゃない……しかし貴殿の態度は――」
「いいぜ、さっきのままで。小難しい言葉なんかよりずっとマシだ」
「ぅ……そう?」
「ああ」
「本当に?」
「けっ……二度、言わせんな。面倒臭ぇ」
アリアの先程までの怒りはいつの間にか消えており、純粋に恥ずかしさだけが残った。
「……っ、しゅんっ!」
湯船にも浸からずその場でモジモジとしていたアリアは小さなくしゃみをする。
「ったく……言ったろ?風邪ひくぜってなぁ」
「でも……」
「イッヒッヒッ…安心しな、何もしやしねぇよ」
別にナニかされるのが嫌な訳ではなく、只単に恥ずかしいだけなのだ。