元隷属の大魔導師 128
エーデルは念のために、と隣に座るアリアへ視線を向けると続ける。
「で、ですが……デルマーノ隊長が着任してからそろそろ、半年になります。なのに、その半年間……」
エーデルはそう言うとまた、目の前の朝食と格闘し始めた。
「「………………」」
アリアとフローラは無言で視線を交わらせる。
「………痛っ」
するとテーブルの下でフローラに爪先を踏まれ、耳を貸すよう合図された。
素直に従うとアリアはテーブルに身を乗り出す。
同じく、顔を近付けたフローラが口を開いた。
「…………ねぇ、アリア……」
親友の名を呼ぶとフローラは少々、戸惑い気味に言う。
「気付いちゃったんだけど………ぶっちゃけ、隊長って面倒臭くない?」
「ぅっ!」
アリアは思わず、叫びそうになったが必死に我慢する。
なにせ、失礼極まりないがアリアも全く、同じ感想を抱いてしまったからだ。
ボソボソとフローラは続けた。
「隊長の婚約破棄されちゃったのだって……きっと、コレが原因よ」
「…………フ、フローラッ!失礼でしょっ?」
「…………アリアッ!声、大き――――」
「……二人とも、聞こえていないと、本気で思ってるんですか?」
気付かぬ内に声が大きくなってしまっていたのだろう、上司から送られるジト〜、という視線に二人は背中に冷たい汗を流す。
「た、隊長……」
「いいですか?確かに私は面倒臭いです。それで幼少の頃から結ばされていた婚約も破棄されました。あろう事かその三日後に元婚約者は他の女性と結婚して……」
「………エ、エーデル隊長、話しがズレてないですか?」
カタカタと持っているフォークをテーブルの上に置かれた皿に小刻みにぶつけ、内なる怒りを現すエーデルにフローラは怯えつつ、尋ねた。
「〜〜〜っ!話しを戻します」
ほんのり、赤く頬を染めるとエーデルは続ける。
「半年、半年もですよ?任務がない日はほぼ毎日、近衛局で顔を合わして、隊長会議や武官会にも何度も共に出席しました。それなのに、猫を被っていたなんて……ショックです」
「へぇ〜〜……デルマーノ君っていろいろ、会議に出てたんだ。知らなかったわ」
「まぁ、彼は公私混同はしないからね。そういった事は私にも言わないのよ」
「なに、アリア?胸、張っちゃって……自慢?惚気?」
「フ、フローラッ………」
「お黙りなさい。私の話しは終わっていません」
ギロリ、と二人を睨みつけてエーデルは言った。
その威圧感は剣を持った時の彼女と遜色ない。
「だって……結局、エーデル隊長も知らされた訳だし……ねぇ?」
「そ、そうです。現在、王宮や近衛局でも彼の本性を知ってるのなんて………十人もいませんよ、きっと」
その迫力に圧され、フローラとアリアは口々にこの面倒臭い上司を宥めにかかった。
「…………そうですか?」
少し、表情を緩めたエーデルに幸いと二人は畳み掛ける。
「そうですよぉっ!エーデル隊長はデルマーノ君に信頼されてますよ!アリアの次くらいにっ!」