元隷属の大魔導師 127
突飛な推測を聞かされ、フローラは目を丸くした。
「あっ……もちろん、私は直ぐに気が付いたわよ?フローラの沽券に関わるからデルマーノには言わなかったけどね」
「自分の部下を毒殺しようとする女っていうレッテルは私の沽券に関わるらないのかしら?」
フローラは何処か惚けたカップルを恨んだ、その時―――
「……アリアさん、フローラさん。おはようございます」
「っ?隊長っ、おはようございます」
「……おはようございます」
「ここ、よろしいですか?」
音もなく現れたエーデルは返事も待たず、アリアの隣に座った。
剣を持っていないエーデルがこれほど強引な態度を取るところを見たことがないアリアとフローラは顔を見合わせる。
「………………アリアァ〜〜……隊長、どうかしたの?」
フローラは聴こえない事はないだろうが極力、エーデルを刺激しないように小声でアリアに尋ねた。
アリアには勿論、心当たりがある。
昨日、素のデルマーノをエーデルが知ってしまった事だ。
「実は、昨日ね……デルマーノが多分、テンパっちゃって………ほら、吸血鬼がまた来るって予告したから、仕方ないんだけど…その……隊長に普段のアレ、バラしちゃった」
隣で無言のまま食事を次々と口に放り込むエーデルにアリアは額に汗を浮かべ、視線を逸らしてフローラに答えた。
「え?……アレって………アレッ?」
「うん。アレ」
二人の脳裏に「イッヒッヒッ……」と歯を剥き出し、笑うデルマーノの像が映し出される。
「………………えええぇぇっっ!?」
フローラの食堂を震わせるかのような叫びに食堂中から迷惑そうな視線が集められた。
アリアは慌てて、その視線に頭を下げて謝罪する。
「………どうやら、フローラさんも知っていたようですね?」
するとエーデルが唐突に口を開いた。
ジロリと迷わず、己を射抜いた冷たい視線にフローラもアリア動揺、姿勢を正し、汗をダラダラとかき始める。
「後は、誰が知っているんですか?」
「ノーク師やヘルシオ君は勿論――他にはエリーゼ姫様とか城下にも………」
「……い、いいんです、どうせ………私以外、みんな知っていたんでしょう」
「…………いえ、親しいほんの一部の人以外は知らないはずですが……」
「……そうですか。私は………親しくないんですね……」
そう言うとエーデルは「私が一方的に……」やら何やら呟き、パンを頬張った。
そんな上司の態度を見て、ふとフローラはある予想をしてしまう。
まさか、そんな訳ない、と思いながらも試しに尋ねてみた。
「た、隊長………もしかして、もしかしてですよ?―――拗ねてます?」
「っ!拗ねてませんっ!」
先程のフローラの叫びにも負けないだろう大音量でエーデルは叫んだ。
再び、食堂中の注目を集めたテーブルに運悪く座ってしまった(最初から座っていた)アリアは申し訳なさそうに非難の視線へ頭を下げた。
「べ、別に私はデルマーノ隊長とは仕事場が一緒というだけの関係で、特別な仲では当然、ありません」