元隷属の大魔導師 119
「それ以外って……?…………っ……もしかしてっ!」
アリアはデルマーノのその抽象的な表現に怪訝な顔をするが、ふ、と答えに思いあたる。
「………………奴隷出身の人達?」
おそるおそる、デルマーノを見るとコクリ、と頷いた。
「ヒッヒッ……懐かしいなぁ。ウェンディの奴隷街にゃ山ほど生えていた。いや、正確に言えば植えられていた、だがな」
「そんな………」
「くくっ…………まぁ、シュナイツはまだ健全だ。こういうのは無いからな?だが、ほとんどの国の奴らはしていたよ。ここから先は人間の街じゃねぇ………」
デルマーノは先程、自らが描いた線を杖でなぞる。
「お前達は、人間じゃねぇ……ってな」
「………酷い」
「イッヒッヒッ……そうだ。貴族も平民も王様も関係ねぇ。皆、酷い事を平然と、当然の様にできる。相手が人間じゃねぇんだから、だ」
「……………………」
アリアは下劣なモノを不快そうに語るデルマーノの話しを黙って聴き、その後に続く言葉を待った。
「………だから、俺はコレ…リコリスの花が好きだ」
「……え?」
「人の悪意と悪性と悪逆の象徴だからだ。コレが在る限り、忘れねぇ……忘れてたまるかっ」
「デルマ……ノ…………」
アリアはデルマーノに話しかけようとするが、彼の憎しみと悲しみと怒りと……、それらの入り混じった顔を見てしまうと、何も言葉にできない。
二人が静寂に包まれる中、リコリスの花だけが風に吹かれ、フルフルと揺れていた。
「………………っあ〜……悪ぃ、まただ。どうも俺ゃ、ある種の話しになると感情的になりやがる。いただけねぇ、癖だな。ヒヒッ……」
「そんな事っ………」
「イヒッ!今、俺達がしてる事にゃ、全く関係無いことだった。さぁて、バカを捜すか?リコリスがあるって事は………」
「ちょっ……待っ………」
リコリスの花畑を避けて、さっさと行ってしまったデルマーノの背中を慌て、アリアは追う。
確かに今、関係あることではないが、それでもそれは彼の根源ではないのか?
何も言えない自分がアリアは酷く淋しく見えた。
「………………な?樹海が近かくて、リコリスが植えられていたって事ぁ、ここらは昔っからの墓場だったんだろうな」
リコリスの花々を追って、二人は何百、いや、もしかしたら千を超えているかもしれない十字架が整然と列んだ共同墓地へとやってきた。
「……………ゴクッ……」
アリアはおそるおそる、辺りを見渡すと喉を鳴らす。
ワータナー諸島王国に来る船中でデルマーノが話していた吸血鬼の話しを思い出してしまったのだ。
いつの間にかデルマーノのマントをキュッ、と強く摘んでいた。
「………………ま、さっさと捜して帰るか?」
「…………うん」
近衛騎士である自分の痴態を触れないでくれたデルマーノにアリアは感謝する。
デルマーノの背中にくっつくようにアリアは墓場を進んで行った。
……………………ドンッ…
「きゃっ……」
アリアは額をデルマーノの背にぶつけ、小さく悲鳴を上げる。