元隷属の大魔導師 114
ピクッ…ピククッ……
デルマーノは眉間に皺を寄せ、額には青筋が浮いていたのだ。
彼が怒った姿なら何度か見たことがある。
しかし、怒りをここまで我慢するとこは初めて見た。
「……〜〜っ…クソガキがぁ………」
「デ、デデデルマーノッ?ほらっ、落ち着いてっ。ねっ?」
アリアにもデルマーノの腹立だしさは分かる。
こちらは二人っきりの時間を割いてサグレスを捜しているにも関わらず、先程から男子生徒のナンパ、女子生徒の買い物、挙げ句の果てに子供の乳繰り合う姿を見せられたのだ。
しかし、ここで捜索を止める訳にもいかず、アリアはデルマーノの腰袋から焼き菓子がはいっているモノを手に取った。
「ほら、デルマーノ……あぁ〜〜ん………」
ばくっ、と一口で焼き菓子を頬張ると顎を大きく上下に動かし、嚥下する。
「…………ふぅ〜……」
デルマーノは糖分を摂取するとある程度、落ち着きを取り戻したのか、髪を掻き上げた。
安堵の息を吐いたアリアはデルマーノの上着の裾を小さく引っ張る。
「それじゃ……行きましょ?」
「………ああ」
未だに憮然としたデルマーノを宥め、アリアは宿を出た。
「………黒の星と赤の竜です」
「いやっほぅっ!ど〜よ?俺の運は?」
賭博場でディーラーに銀貨の小さな山を手元に渡された少年が歓声を上げ、左右に座る少女の肩を抱いた。
少女達は口々に世辞を述べるが、このような賭博場で何の技術もない少年が運だけで勝てるわけがない。
勝たせてもらえているのだ。
そしてノッてきた所で連敗をさせ、有り金を全て巻き上げられるのだろう。
「よしっ………次だっ!」
「………かしこまりました」
ディーラーは札を切りながらもう、頃合いだろうと目を細めた。
その時………
「………何をしているんですか?」
「あ?………っ!あんた、は……」
声を掛けられ、振り向いた少年は目を見張る。
そこにいたのは自分達と共に来た二人の王女の護衛である近衛達であった。
片方の女は知らないが声を掛けた男なら知っている。
デルマーノ。
奴隷上がりであまり良い噂は聞かない。
「あっ……と…………これは……」
気まずそうに少年や取り巻きの少女達は顔を背けるがデルマーノは見逃す訳がない。
「未成年者のみの賭博は禁止されているんですがね?」
「すっ、すみませんっ!」
「後、外での飲酒も……」
「うっ………」
少年は手元の木製の杯を必死で隠そうとするがすでに誤魔化せる訳もなく、ただ、自分の服に賭博場の安い酒を引っ掛けただけであった。
「冷てっ……くぅっ………」
「………まったく、そんな目で見ないで下さい。別に私は先生方ではないのですから…仕方ありません。一回だけは見逃しますから、早く宿へ帰りなさい」
己を恨みがましく睨む少年達にデルマーノはさも『仕方がない』という風に妥協案を提示してやる。
サグレス以外のガキが何をしてようが興味がない、というのが本音だが……。