元隷属の大魔導師 112
アリアは、はっ、となりデルマーノの横顔を見つめた。
(私が……デルマーノを、変えた?私が………変えることが…出来た……)
自分にはデルマーノ達、元隷属者に何も出来ないと思っていた。
ただ、憎しみを受け止める事しか出来ないと思っていた。
だから、アリアはデルマーノが自分を起点に少しずつだが、変わっていったという告白が意外で、そして嬉しかった。
「アリア………」
前を向いていたデルマーノがこちらを向き、呼び掛ける。
「……何?」
「…………ありがとう」
「っ〜〜……いいえ、こちらこそ。ふふっ」
コトン、とアリアはデルマーノの肩に頭を預けた。
「ヒッヒッ………」
デルマーノは風に掻き消される程、小さく笑う。
二人は無言のまま、しかし暖かい空気に包まれ郊外へと歩いていった。
「あっ………そういえば、デルマーノ……」
「あん?」
アリアがそう、口にしたのは街を挟んで海岸が望める小高い丘の上へと来た時である。
水平線を境に星空と海が溶け合っていた。
「サグレス様……ほら…昼間、私達が……その………」
「あ〜……ヤってた時に来た奴な」
頬を赤らませ、口ごもっていたアリアは更に赤くなる。
もうっ、と膨れ、デルマーノの脇腹を小突いた。
「その……サグレス様が行方不明みたいなの。先生方も必死になって捜しているみたいで………私達が見かけた事は言った方が良いのかしら?」
「けっ………どうせ、一緒にいたあの女としけこんでんだろ。明日にはヘロッ、と帰ってくるだろうさ」
「でも……もし、何かあったらタラス公から近衛局に責を問われるわ」
「ん〜……まぁ、そうなるわな」
デルマーノはポリポリ、と頭を掻くと面倒くさげに続ける。
「………うしっ、軽く捜すか?」
「デルマーノ………」
「ふんっ………局がどうなろうが知ったこっちゃねぇが、あの部屋は居心地良いからな」
彼の照れ隠しの悪態にもアリアはすでに慣れた。
「ふふふっ………」
「…………ちっ」
「ああっ……もう、ごめんなさい。ふてくされないで。でも、こうなるって分かっていたらアルゴも連れてくれば良かったわね?」
デルマーノが舌打ちをし、そっぽを向いたのでアリアは慌てて話題を変える。
「悪ぃな。今、アルゴは脱皮中だ」
「……………はい?」
「脱皮。だから二、三日は動けねぇんだ」
「へ、へぇ〜………ドラゴンって脱皮するんだ」
「ん?」
「な、なんでもないわっ。それより………」
デルマーノからもたらされた新情報に驚き、ぼそりと感想を漏らしたアリアだったが深く追究されるのも少々、恥ずかしかったため、誤魔化した。
「アルゴがいないんだったら………どうやって捜すの?」
「けっ……俺ゃ、魔導師だぜ?方法ならいくらでもあらぁ」
そう言うとデルマーノはもう、馴染みとなった左手の中指にはまった緑色の指輪、魔導の発動体へと小さく呪文を唱えていく。
ウィンッ………
唱え終え、左手を空へと掲げると指輪から緑色の閃光が夜闇を走った。