元隷属の大魔導師 106
目の前に座る愛しき男は非常に好奇心が旺盛、というか何事も追究しまくる。深く、深く、自分が満足するまで何処までもだ。
だからだろうか?彼の瞳に魅せられてしまうのは………。
「?………何だ?」
厨房を覗き込んでいたデルマーノがアリアへと向き直り、首を傾げた。
「……ううん。何でもないっ………ふふっ」
アリアは口元を手で隠すと、笑い声を漏らす。
そうか、と言うとデルマーノも釣られてヒヒッ、と笑った。
「ほう、楽しそうじゃねぇか?」
いきなり、声を掛けられてアリアはピクッ、と身体を跳ね上げる。
辺りに気を配らないなど、騎士失格だ。
アリアは声の元を見ると先程、喧嘩を売ってきた老人であった。
「知らなかった。貴族でも笑うんだな?」
「まぁな。ぇっ……と……」
「おっ、悪ぃ悪ぃ。俺はノルック。鍛冶と彫金をやっている」
「俺はデルマーノ、シュナイツ近衛魔導師隊の隊長だ。んで、こっちが……」
「近衛騎士のアリアです。よろしく」
「ああ、よろしく」
ノルックはデルマーノ、続いてアリアとも握手をする。
「俺はもう、帰ろうと思ってな。最後に挨拶を……そうだっ、デルマーノ。嬢ちゃんに一つ、どうだ?」
ノルックはそう言うとカボチャが二つ程、入りそうな金属の箱を机に置いた。
デルマーノとアリアは訳が分からず、疑問符を浮かべる。
するとノルックはニヤリと笑い、所々赤く錆びついた箱の蓋を勿体つけて、開けた。
「………ジャァ〜ン」
「わぁ……」
ノルックの口から出た効果音に合わせ、アリアは箱の中を覗き込むと歓声を上げた。
中には金銀で装飾された色とりどりの宝石が整然と並べられていたのだ、仕方もない。
「宝石か、なるほど……流石はワータナー。ペルセポネウス鉱山のモノ、だろ?」
「おう。地元民でもねぇのによく、知ってんな?」
「おいおい……俺ゃ、こう見えても魔導師だぜ?モノを知ってんのが商売だ」
「ふんっ……言うねぇ」
「あ、あのっ………ぺ、ペルス……ペルセぺ…鉱山……って何?」
二人の話しに着いていけず、アリアは恥ずかしそうに目を伏せて尋ねた。
当然のように二人が話すため、己が無知なようで恥ずかしかったのだ。
「あぁ〜………ペルセポネウス鉱山な。ワータナー諸島の中の一つで、島丸ごと一つが鉱山なんだ。採れるのは金銀、水晶、エメラルドなどなど……カルタラ有数の大鉱山だ」
デルマーノの説明に付け足すようにノルックは続けた。
「んま、つっても見つかったのは十年ちょっと前。さらに、馬鹿みたいな量が埋まっているのは確かなんだが……ウチの阿呆貴族共が金を荒稼ぐために非公式にしてんだ。嬢ちゃんが知らなくてもなんら不思議はねぇ」
「は、はい……」
アリアは素直に頷くが、チラリとデルマーノを盗み見る。
何故、この男は一国家が秘匿にしている情報を知っているのだろうか。
「くっくっ………」
アリアの視線に気付いているのだろう、デルマーノは喉の奥で笑った。