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ドールマスター〜人形師〜
官能リレー小説 - ファンタジー系

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ドールマスター〜人形師〜 3


「そうだ・・・。夕べは紅蓮の修理をした後、葵に彼女をベッドに運ぶように頼んだんだっけ・・・」

ホッと安堵のため息をつきながら私は立ち上がると、朝日の差し込む窓を見やった。
夕べ、あんなに荒れていたとは思えないほどのいい天気。
できればこの天気が、これからの自分たちの未来をあらわすものであってほしい。
するとまるで計ったかのようなタイミングで、葵が私の様子を見に来てくれた。

「おはようございます、マイスター。ご気分はいかがですか?」
「ん、大丈夫だよ。それより紅蓮はどうしてる?」
「ちょうど今、お目覚めになられました」
「・・・そうか。今、行く」

紅蓮が自分との面会を求めていないことに不安を感じながら、私は自らの罪の待つ部屋へと歩いていった。

――――

紅蓮は何気なく窓の外を眺めながら、あのときからまったく変わらない美貌で私を待ち続けていた。
身体に巻きつけられた包帯や傷跡を見ると、責められているようでとても心が痛くなる。
彼女はまだ、自分の意思を見せてすらいないというのに。

「紅蓮…」

そう一言呼びかけて、後が続かなかった。
昨日押し殺した想いが溢れ、言葉を発することを邪魔してくるのだ。
何故、戦いの中にこそ人形の真の美しさはある、などと考えたのか。
どうして、彼女を創りあげた時の、この世に生まれてくれた時の喜びを、無視して戦場に送ったのか。
―私は悪い父親だった。けして、許して欲しいのではない。
だがそれでも目の前に、傷ついた身体で帰ってきてくれた彼女がいると、手が震えてしまうのだ。
これが、再び逢えた喜びのためなのか、彼女の口から罵倒の言葉を聞くことへの恐怖のせいなのか、今の私には判断できない。
そうして何も言えず、何も出来ず、ただ立ち尽くしている。
すると呼びかけに反応したのか、紅蓮がこちらを振り返り、ジッと見つめてくる。

「……」
「…っ!」

部屋を沈黙が支配する。それは数瞬に過ぎなかったのかもしれれない。
だが彼女のルビーの様に澄んだ、感情の読めない透明な瞳の中に囚われた私は、そこでいつまでも終わらぬ、永遠の責め苦を受け続けているかの様に思えたのだ。
しかしそれは、ただの気のせいなのだと分かった。

「…ふふっ」

紅蓮の口から、思わず出てしまったという様な、軽い笑い声がこぼれた。
その目は可笑しそうに歪み、優しげな弧を描いていた。
私がポカンと間抜けな顔を晒してしまうと、もう堪えきれないとばかりに、軽やかな笑いが部屋に満ちていった。

「ははっ、あははははは!」
「…あの、マイスター?」

部屋から場違いな笑い声が漏れてきたからだろうか。
二度のノックの後にドアから顔を覗かせて、葵が声をかけてきてくれた。
そこには快活な笑みを見せ、背中を震わせて笑う紅蓮と、何とも言いがたい顔で立ち尽くす私という、実に判断に困るであろう光景が、広がっていたことだろう。

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