引き、斬る２つの動作を繰り返す明日香と突き・薙ぎ・払いなど多彩な手段で攻撃をいなす静那。
フェンシングという競技は突きを重視にした、言わば先の先を取る剣術だ。
攻撃は早くリーチも長いが、一撃一撃が軽く、攻撃が単調になるのでどうしても手数に頼らざるを得なくなる。
対する日本剣術はリーチに劣るが一撃が重くフェンシングのように正面からの突きだけでなく、上下左右の全９方向から攻められるメリットがある。
静那からすればあまりに単調な攻撃に、徐々に明日香の顔色が曇っていく。
「そらそら、どうしました！？お顔の色がよくありませんよッ！？」
「よ、よけいなお世話だいっ！！」

静那の挑発によって放たれたいつもより強力な斬撃。
そのささやかな変化を、静那は見逃さなかった。

「スキありッ！」
「ッ！？」

ここぞとばかりに静那は明日香の剣を跳ね返し、決死の一撃を明日香の左肩目がけて振り下ろす！
決まったか！？見ていたものなら誰でもそう思ったその瞬間、静那と明日香は不可解な表情を浮かべていた。
静那は困惑。明日香は笑顔。
それが何を意味するのかは、静那が弾いたはずの剣に切り伏せられていたときハッキリとした。
その正体は剣の特性。フェンシング用のサーベルだからこそなしえた奇跡の一手であった。

「そ、そんな・・・バカ、なっ・・・！？
　弾いたはずの剣がしなって・・・戻ってくるなんて・・・ッ！？」

そう。フェンシング用とのあの剣は柔軟性に富み、弾かれた剣はしなって戻ってくる反動で無防備になった静那を切りつけたのであった。
予想外の剣のしなりに呆気に取られてしまった静那に、明日香は思いきった行動に出る。更に繰り出した突きのままの勢いで、静那に凄い衝撃で身体をぶつける。
文字通り、捨て身の体当たりだ。
拍子に静那は刀から手を離し、明日香もまたもつれて倒れる時にサーベルも落としてしまう。
かなり強く激突したせいで、明日香と静那はお互いもつれ合ったまま暫く痛みで動けずにいた。

先に動けたのは静那だった。
とっさに刀を取ろうと身を離すが、明日香に足首を掴まれてベチャンと顔面から地面に突き刺さる。
余りの痛さに涙目になった静那は、素手のまま明日香に飛びかかる。
「よくも、やってくれましたねっ！…この痴れ者っ！！…」
明日香に馬乗りになり、両手で首を絞める。
「苦しくなんかっ！、ないよっ！！…」
下からゴチンと殴る明日香の拳は、まともに静那の鼻面を捉え、静那は鼻血を噴きながら退け反る。
屍美女に首を絞めても意味が無い事を静那は把握してなかったようだ。