屍美女の大群 41
ぼやけた思考がクリアになり、響香は思わず介抱していた明日香に頭突きをかます。
しばし痛みに悶えるアホ2人。屍美女になっても痛いものは痛いらしい。
そこに佳代の呆れた声がかかる。
「・・・何をやっとるんじゃ、まったく」
「そ、そんなことより駿は?駿は大丈夫なの?」
「・・・わからん。あたしらが目覚めたときにはもう姿を消しとった」
「消えてたって・・・何、ゆっくりしてんのよ!?
早く駿を探さないと!」
「落ち着け!駿をさらった相手、居場所なら大体検討がつく!
今はその血が上った頭を冷やさんかッ!?」
祖母の一喝は、混乱と焦燥の極みにあった響香の頭を一気に沈静化させた。
隣では明日香が迫力の一喝に泣き出しそうになっていたが。
響香はそれを無視し、頭が冷えた頃を見計らって質問する。
「・・・それで?駿をさらったって言うのは?」
「この洞窟の主。弓姫。おそらく今頃は洞窟の奥で、駿の精を搾っておるじゃろう」
「大丈夫なんでしょうね?もし駿に何かあったら・・・」
たとえ佳代ママでも許さない。響香は静かに冷たく警告する。
対する佳代はそれを平然と受け止め、話を続ける。
「少しくらいなら大丈夫なはずじゃ。駿坊にはあたしの技術を叩き込んでおる。
いざとなれば相手から母乳を搾って相手をとりこにすることもできるじゃろう。
それより今は駿坊を奪還する方法を考えることが先じゃ」
佳代がすぐに救出に行かなかった理由はここにある。
何しろ相手はこの洞窟の主で、戦国時代を生き抜いた女武将。
本物の戦場を経験している相手である。
いくら神薙家の女が武術をかじっているとは言え、試合と実戦は別物だし、戦争を知っている佳代でさえ殺し合いは専門外だ。
おまけに相手は不死身の屍美女。不利な材料には事欠かない。
そのために佳代は準備を万全にすべく、頼りになる響香の目覚めを待ったのである。
明日香と智恵美を当てにしないあたり、かなり非道な女だが。
「ではさっそく作戦を立てよう。
ちょいと過激になるやもしれんが、こっちも不死身なんじゃ。
多少のダメージは覚悟しておけよ?」
・・・やっぱり非道だ、この女。
智恵美の存在なんか、すっかり忘れているし。
「所で…ママはどうするの?」
とりあえずと言う感じで聞いて見た響香に、佳代は楽しそうに響香に言う。
「無論、智恵美は戦力的には必要じゃ…じゃが、話し合いには必要あるまい」
佳代は全くそっちの『戦力』には見なしていないとばかりにバッサリと斬り棄てる。
心なしか、母のすすり泣きが聞こえた気がする響香だった。
そう言いながらも、佳代は腰のガンベルトに付けたポーチをゴソゴソと探る。
「ん?…あったぞ…目覚めの一発にコレでも喰らわしてやれ!」