屍美女の大群 38
「どうします、お母様…戻りますか?」
怖がりの虫が疼き出して、もう帰りたい智恵美が佳代に聞く。
「まあ、そう焦るな…折角じゃし弓姫様とご対面するのはどうじゃ?…伝説によれば、弓姫様の身体もあたし達と同じく死蝋化したらしいからの」
単純な知的欲求で先に行きたいと言い出す佳代…それに明日香が賛成し、響香が反対する。
2対2になった所で、全員が駿を見るが…その時、駿のお腹が盛大になった事で、全員から笑みが漏れる。
「ふふ…駿坊も腹ペコのようじゃし、一服にするかの?」
「うん。それじゃお言葉に甘えて」
かくして駿は1人昼食を始めた。
屍美女である響香たちは休息・食事が一切不要となる。
少しキスしたり股間をいじりあったりすれば自然とエネルギーが満ちてくるらしい。
事実、駿のまわりでは智恵美と佳代、響香たちが軽くレズってエネルギーを充填していた。
しかしその中で、まだ人間を捨て切れない明日香だけはジッと食事をする駿を見つめていた。
あまりにじっと見てくるものだから駿は食べづらくなり、苦笑しつつ声をかける。
「食べたい?」
「・・・いいの?」
「ん。朝ごはんしっかり食べたから」
「わーい、ありがとう♪」
明日香はうれしそうに言うと渡されたおにぎりにパクリと噛み付き・・・変な顔をした。
痛んでいたり、明日香が苦手なものが入っていたとかそんなことはなかったはずだが・・・?
「ど、どうしたの?」
「んぅ・・・?あのね、あんまりおいしくないの」
「おいしくない?そうかな、そんなことはないと思うけど・・・」
「それはたぶん屍美女になったせいじゃよ」
振り返れば、そこにはいつの間にか食事を済ませた佳代がやってきていた。
「あたしもそのおにぎりを味見したとき気づいたんじゃが。
どうやらあたしらは味覚の嗜好が変わっとるみたいなんじゃ。
人間の食事は物足りなく感じる代わりに、精液や愛液、唾液などの人間の体液をおいしいと感じるようになっとるんよ。
ほれ、明日香。おまえのごはんじゃ」
佳代はそう言って明日香に口付けると、明日香はすぐ夢中になって『食事』を始めた。
こうして見ると、家族が腎外の存在になったことを改めて思う。
果たして自分はいつまで彼女たちと一緒にいられるのだろう?
駿はふとそんな不安に駆られてしまった。
しかし今はそれどころじゃないとムリヤリ思考を切り替えると、さっさと食事を済ませた。
その時だ。今までのんびりしていた響香たちが一斉に顔を上げた。
みな一様に持ってきた武器を手にして、周囲の様子をうかがう。
「ど、どうしたの、みんな・・・?」
「・・・聞こえないの、駿?
さっきからそこかしこで、ごそごそ何かが音を立てて動いているのよ・・・!」