屍美女の大群 269
「あ・・・あぁ・・・ッ!?」
「・・・ッ!?」
その光景に2人は戦慄した。
わかっていた。この引き金を引けば、どんなことが起こるかくらい。
しかし初めて生き物の、ヒトの形をしたものを殺した衝撃と光景は2人の考える以上に重いものだった。
周囲に広がる血の海。手足を撃ち抜かれた程度ならまだいいほう。
ひどいものはどてっぱらを何度も撃たれて、地獄の苦しみを味わっていたり、頭を撃ち抜かれたりしている。
何より2人にとってつらかったのは、驚いた面々が一斉にこちらを見ていることだ。
連中は驚いて見ているだけなのだが、2人には人殺しとなった自分を責められているようで、とてもつらい。
それでも留美はその重責に何とか耐えようとしていたが。
「うああぁぁぁッ!?」
「っ、姉さん!?」
マリナはその視線に耐え切れなくなり、狂ったように撃ち始めた。
突然機能しだした潜水艦の兵器。
ここで佳代が響香たちに連絡を入れなければ、きっと新たなる脅威として破壊しようとしていたことだろう。
『みんな安心しな!今のは敵の仕業なんかじゃない!
戦闘に出れないあたしと駿の代わりに、留美さんとマリナさんに後方支援をお願いしてもらったんだ!
一緒に連れてきたあの鳥娘もすぐに調教してアンタたちの手伝いをさせる!
それまでもうちょっとふんばるんだよっ!』
「え?え?お母さん、どういうこと?」
「あのヒトたち、確か戦う力なんてなかったんじゃ・・・?」
「難しいこと考えんな!とにかくあれは味方だって思えばいい!」
「明日香!目の前の敵に集中しなさいっ!よけいなことを考えるとやられるわよっ!?」
「「はっ、はいぃッ!?」」
佳代のアナウンスに、明日香と美羽はわけがわからないとばかりにその手を止めかけたが、すばやく綾子と響香が活を入れることで再起動する。
そう、今は難しいことなど考える必要などない。
なぜなら今は甲板に次々と降ってくる屍美女たちを振り落とすことが先決なのだから。
響香たちはよけいな考えを捨てて、再び敵の集団に立ち向かっていくのだった―――。
――――
「はあッ!はあッ!はあッ!!」
「み、見えた!アイツら、あれでここから脱出するつもりかッ!?」
その頃。恋人との再会と島からの脱出を試みる2人の男が、ようやく川を進む潜水艦を発見していた。
彼らがいるのは潜水艦よりさらに先にある崖のそば。
屍美女から逃れるように移動していたら、たまたま前に来れてのだ。
「うおっ!?あの連中、あれだけの化け物どもを相手に、押してやがる!?」
確認すると、響香たちが襲ってくる屍美女の大群を次々と倒していっているのがわかる。
連中の怖さを知っているだけに、響香たちの強さは鬼神のごとく映っただろう。
しかしもう1人の男にとって、大事なのはそんなことではない。