屍美女の大群 268
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一方。戦闘への参加を強制された真堂姉妹は、ある場所に向かって歩いていた。
2人の向かっている場所は兵器の管制室。
一般人の2人に兵器なんて扱えそうにないのだが、佳代がそこに行けば簡単に兵器を扱えると言われて来たのだ。
しかし問題は、目的地が甲板の近くにあることだった。
「な、何よこれ・・・!?」
兵器管制室に着いたマリナは、その光景に絶句した。
何とその部屋には屋根がなかったのだ。
おまけに壁のところどころからそれぞれの兵器のものと思われる部分が飛び出ており、そこからコントローラーと思われる棒状の突起物や銃器のトリガーが設置されている。
どうやらこれに使ってガンシューティングよろしく撃てということらしい。
管制室と言うにはあまりにも簡素な部屋に、2人は二の句を告げられなかった。
文句の1つでも言ってやりたいところだが、屋根のない天井から聞こえる怒号と悲鳴。
そして壁にあいたのぞき穴から見える地獄の光景に、佳代の言うことがうそではないことを理解した。
「ギャアアァァァッ!!」
「グエエェェェ・・・ッ!?」
「「・・・ッ」」
初めて見る戦場に2人は背筋が凍っていくのを感じた。
今すぐここから逃げ出したい衝動に駆られる。
だがいったいどこに逃げ場があると言うのか?
今やこの島には屍美女がいっぱいだ。
この戦場を抜けるだけでも一苦労だと言うのに、その上逃げ場もないのだ。
戦い続ける響香たちの姿に佳代の言葉が重なる。
『今はネコの手でも借りたいくらい大変な状況なんだよ』
今まで逃げることしか知らなかった2人は、この時初めてネコを噛む窮鼠となったのだった。
2人は震える手で、近くに転がる武器に手を伸ばす。
そしてのぞき穴やスコープから周囲の状況を見ながら、適当な『的』を探す。
味方を巻き込まないように。できるだけ多く当たるように。
当てるものは人間ではない、生き物ではない、ただの的だと呪文のように繰り返しながら、2人は意を決してそれぞれ握っていたトリガーを引いた。
ダダダンッ!タタタタタ・・・ッ!
「わっ!?」
「きゃああっ!?」
『!?』
障害物や背景に過ぎなかった銃器が火を吹いたことに、周囲は敵味方問わず戦いの手を止めてしまうほどに驚き。
初めて使う銃の反動に真堂姉妹は思わず目をつぶり、悲鳴を上げた。
素人丸出しの射撃であったが、不意打ちだったこともあり、飛び出した銃弾は敵の手足、身体とやたらめったら撃ち抜いていく。
そして銃器が沈黙した。
我に返った2人がトリガーから指を離したのだ。
いや、恐怖に離さざるをえなかったと言うべきか。
元々そのつもりだったとは言え、善良な一般人であった留美たちは、初めて人殺しとなってしまったのだから。