屍美女の大群 262
しかし駿にはまだそれが理解できないのだろう。
彼は怒られた恐怖と助けに行けない不満を孕んだ瞳で、じっと佳代を見つめていた。
その瞳に佳代は子宮がズクンとうずくのを感じたが、それでも許可を出すことはない。
しかしこの視線に耐えながら潜水艦を進ませるのもちょっとつらい。
そこで佳代は妥協案を駿に出してみることにした。
「・・・それじゃ、アイツらに手伝ってもらおうかね」
「『アイツら』?」
だれのことを言っているのか、ピンと来ない駿が首をかしげる中、佳代は慣れた手つきで機械を操作すると、マイクに向かって声を張り上げた。
「留美さん!マリナさん!
その辺から鳥女を連れて運転室に来ておくれ!」
「・・・!?佳代ママ、まさか・・・!」
「そうだよ。あの3人に、甲板で戦っているみんなの手伝いをしてもらうのさ」
「だ・・・ダメだよ、そんなこと!」
佳代の妥協案がとんでもないことと知り、駿は大慌てで反抗した。
せめてマイク越しに彼女らが聞いていたらまだ救いはあったのだが、佳代が通信を切ってしまったので、ここに来るまではどうしようもない。
「だ、大体なんで留美さんたちを戦わせなきゃいけないんだよ!?
あの人たちは人間なんだよ!?
それなら男のボクが行ったほうが、幾分かマシじゃないか!?」
「さっきも言っただろう?
駿坊が出たら、甲板にいる連中は敵味方関係なくおまえに殺到する。
おまえのせいで、智恵美たちがもう1度死んだらどうするつもりだい?」
正確には死ぬよりもつらい状況になるのだが、そこは方便でわかりやすい言葉に言い換えて説明する佳代。
「それに今は駿坊の言うとおり、少しでも戦力のほしいときなんだ。
いくら人間だからと言って、戦える人間を放置しておくほど、あたしはお人よしじゃない」
「・・・ッ、でもっ!?」
なおも反論しようとする駿に、佳代はため息を1つついて説得をあきらめた。
駿は元々優しい子だ。理屈をいくら並べたところで納得などしないと悟ったのだ。
「・・・仕方ないね。聞き分けのない子にはちょいとお仕置きしてあげるよ」
「・・・っ!?」
「安心おし。島から出るしばらくの間、動けなくなってもらうだけだから」
佳代はそう言うとすばやく体勢を入れ替え、駿の唇を奪った。