屍美女の大群 142
綾子はそう言うと、爆薬入りのリュックを背負った。
綾子たちが佳代と一緒にここまで来たのは、人間マリナの護衛のためではない。
屍美女の巣と化している、西海岸の施設を破壊するためだ。
屍美女は不死身だから殺せないが、生き埋めにすれば時間稼ぎくらいはできるだろう。
「くれぐれも気をつけるんじゃぞ?
おそらくあそこには見たこともないような連中がわんさかいるはずじゃ」
「わかってますって。それじゃ行ってきます」
綾子は佳代の進言を軽く受け流すと、明日香・美羽・静那とともにその場を後にした。
「・・・さて。それじゃ仕事に戻ろうかの」
「そうですね」
佳代たちは綾子たちの姿が見えなくなると、何事もなかったかのように仕事に戻る。
まるでピクニックにでも出かけるような気軽さに、不安になったマリナがおずおずと声をかける。
「あの・・・大丈夫なんですか?」
「ん?何がじゃ?」
「な、何って・・・。さっきの人たちのことですよ。
あの人たちの実力を疑うわけじゃないですけど、あんな軽装であそこに行くなんて・・・」
きっと彼女の頭の中では仲間たちを食い殺し、自分をも殺そうとした連中がわんさか徘徊している光景を想像しているのだろう。
かすかに身体を震わせるマリナに、佳代たちは苦笑を浮かべる。
「大丈夫じゃよ。あたしらは先に目覚めた分、自分たちのことを理解しておる。
起きたばかりのヒヨッ子なぞ物の数ではないわい」
「それにああ見えて綾子さんたち結構強いんですよ?
心配することなんてないです」
「それより今は早く島を脱出する準備を整えねばの。
お嬢ちゃん、悪いがそこのスパナを取ってくれんか?」
心配する素振りすら見せない響香たちの様子に、マリナはそれ以上言うことができず、しぶしぶ彼女は佳代に頼まれたスパナを手渡すのであった。
――――
一方その頃。留守番を命じられた駿・智恵美・留美の3人はと言うと。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
実に重苦しい雰囲気の中で食卓を囲んでいた。
うっかり自分の性生活を暴露してしまった智恵美は、羞恥心から口を閉ざし。
それを聞いてしまった留美は、何を話せばいいのかわからなかったのだ。
何も知らない駿だけは居心地悪そうに二人の様子を伺うばかりだ。
(な、何?さっきから何なの、この重い空気!?
台所で一体何があったの?)