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魔剣使い
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔剣使い 10

ち、と舌打ちして、女は馬をわずかに後退させた。後ろ足に立った馬の、鼻先ぎりぎりに枝がドスドスと、頭部の盾となるように突き立つ。
振りかざした剣は、頭部でなく、枝の槍ぶすまをかすめた。
その瞬間。

パァン、と破裂音がした。

無数の枝から成る盾が、跡形もなく吹き飛ぶ。
男の目にはそう見えた。粉々に弾け飛んだのだ。
あれが魔剣の威力…彼は息をのんだ。頭部に当たれば、決まっていただろう。
緑人も動揺した。虫を払うように、体の横から、新たな枝の槍が突き出す。

「あぶねっ!」
彼は思わず叫んだ。
だが間に合わなかった。横ざまの死角からの攻撃に、女戦士は対応しきれなかった。馬ごと突き倒される。
女の体が宙を舞った。

彼は弾かれたように地を蹴った。
心の片隅で、何やってんだ俺は!と自分をののしってはいたが、しかたがなかった。体が勝手に動いたのだ。
女を狙ってしなる枝の槍が突き降ろされる。
彼は黒い球体を槍の切っ先に投げつけた。
「とっ、『虎よ』!」

空中で爆発が起きる。
枝は四散したが、とがった木片がぱらぱらと落ちてきた。彼は走った。
「う、うわああっ!」
スライディングして女を抱き取り、落下地点から転がって逃げる。
女を抱えなおして頬を叩く。頭でも打ったのかもしれない。完全に意識がない。
「くっそ、どうすりゃ……っ!」

ふいに、強い害意にさらされ、彼は硬直した。

続いてバリ、バリ、と、耳をふさぎたくなるような咀嚼音が耳に入る。
彼は、半ば目に涙を浮かべながら振り返った。
「う、馬…」
無意味な呻きが漏れた。
白馬であったものは、もはやその残骸でしかなかった。
闇に沈む褐色の体の中で、ぽっかりと開かれた口の奥だけが、まがまがしく赤い。
肉片を喰らいながら、黒い巨眼は憤怒に燃えて彼を見ている。
「あ…くそ……」
足が震えている。
腕の中の女戦士の肩を、彼は知らぬ間にぎゅっとつかみ締めていた。

そのとき、突然女の手の中の魔剣がしゃべり出した。
「我が使い手よ、我を持て」
不思議なものだ。
うるさいだけの剣だったはずが、深慮をうかがわせる声音に、彼の恐怖はわずかに薄らいだ。
「持てっつってもよ…俺にゃ、あれに近づくのは無理だ」
「近づく必要はない。汝は我が使い手だ。力を引き出せる」

立て、と魔剣は彼に指示した。
言われるまま、剣を逆手に持って背中側に振りかぶり、腰を落として構える。
魔剣は非力な一般人の彼にも、ちょうどよい重さだった。
「本当に大丈夫なんだろうな…」
半信半疑で彼はつぶやいた。
剣の指示は、敵の方を向いて宙を斬れ、だった。
遠距離に魔力をとばせる呪物は確かによくある。だが、この剣はそれらと違い、何の制約も言葉も要求しなかった。
「信じよ。汝の生命を吸い取ったりはせぬ」

代償を心配したわけではない。疑問に思ったのは効果についてなのだが…どうせ、他にできることはない。

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