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魔剣使い
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔剣使い 51

 それから沈黙が続いた。
 しかたのないこととはいえ、二人の間の空気は重かった。ゲルダは一切無駄口を叩こうとしない。憎しみや恐れを向けることすらせず、努めて事務的にタナハに接しようとしている。
 そう、彼は、ゲルダが憎悪をぶつけてくれればいいのにと思っていた。忘れたふりなどせず、彼に謝罪か、刑罰を求めてほしい、と。
 タナハはどこまでいっても善良な市民なのだ。罪悪感を抱えたまま、その対象とずっと二人きり…蝕は居るが、彼は口をきかないようにしている…など耐えられない。
 彼はおそるおそるゲルダに話しかけた。
「そういえば、さ」
「なんですか」
「いや、ほら、巨大な緑人をやっつけた切り札、って長官が言ってたけど…」
 どんな反応を引き出せるかと正確に予測できたわけではなかったが、沈みきった空気が変わるのはわかった。
「なんと言えばよかったのですか!」
 ゲルダは不意に激昂した様子で、叫ぶようにそういった。
「力及ばず倒れ、命を落とした…それが事実だったら、どんなにか…!」
 激昂は続かなかった。彼女は肩を落とすと、震える声で続けた。
「力及ばず倒れ、救ったつもりだった男に辱められ、自失している間に緑人は打ち倒されていたと……危険を顧みず探しに来てくれた町民に、そう答えるべきだったと…」
「わ…」
 悪かった、とも、ごめん、ともタナハは言いあぐねて口ごもった。謝罪したい気持ちはもちろんあるし、釈明したいとも思うのだが、何を言おうが上っ面にしか聞こえまいという確信があった。
 わけも知らぬまま陵辱を受けた女に、陵辱を加えた男が言える言葉などない。その上、彼女にはタナハを成敗することすらできないのだ。タナハが罰をある程度受け入れるつもりであっても。

 見送られる際、ゼノバ長官を見つめる彼女の姿に、タナハは心中複雑だった。うっとりと、とろけきった眼差しからは隠しようもなく恋慕があふれ出していたのだ。
 長官の下の名、ハギアという名をいつ聞いたのか、彼はすでに思い出していた。その名は他ならぬゲルダの口から漏れ出たのだった。タナハ/蝕に貫かれた、あの絶頂の瞬間に。
 愛する男から、自身を辱めた男に今後も同様の行為を許すよう強いられた彼女の心中など、推し量れるはずもなかった。

「ぜ、ゼノバ長官は…」
 結局、彼は謝罪を呑み込んで、別の話をしようと適当に口火をきった。
 口にしてしまってから、どう考えてもふさわしくない話題だったと後悔したが後の祭りだ。ゲルダの表情が一瞬でかたくなった。
「…なんです?」
「いや、あの人も、あれだよな。自分の女にこんな危険な役目をさ、」 
「私は、あの方の女なんかではありません」
 ゲルダはそう言って、ふいと顔をそらした。
「あの方のお気まぎれに数度、お情けを頂戴しただけです。あの方にはすばらしいご内室がいらっしゃいます。他の誰も……あの方の女にはなれません」


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