PiPi's World 投稿小説

魔剣使い
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 5
 7
の最後へ

魔剣使い 7

「え、と…魔法使い…か?」
彼はさしのべられた手をつかみながらいった。
手はひんやりとしてはいたが、人らしい体温と実体をもっていた。人間だ。
そして、こんなことができる人間は魔法使いの他にいない。
「ええ。この町の役所に勤務していました」
「あ、あんたは一人で、ここで何を?」
「生き残った者がいないか、探しに来たのです。もう誰もいなかったけれど」
少しつらそうに、彼女はいった。
「救えたのはほんのわずかです。あなたを見つけられて、本当によかったわ」

行きましょう、とうながされ、彼は女の後ろを走った。
「あの緑人はまだ飢えています。獲物を一匹でも逃がすつもりはないはず」

女は黒いウールで織られた、魔法使いのローブを纏っている。
しかし、多少の耐性を備えているはずのローブには、ところどころ破れや焼け焦げがついていた。そこから白いなめらかな素肌がのぞいている。
彼女がたったひとりで、どれほど激しい戦いを繰り広げたものか、一目瞭然だった。

しばらく静止していた緑人が、ずるりと蠢いた。
できる限り距離をとろうと走るが、相手には飛び道具がある。
見る間にメキメキときしむ音を立て、杭がこちらを向いて並んだ。

前を走っていた女が振り返った。
握っていた左の拳を開き、緑人の方向にかざす。
小さな、黒い球状の何かが彼女の小さなてのひらを出て、投げたわけでもないのにまっすぐ緑人の方へ飛んで行った。夜の闇の中で、球がわずかに月光を反射している。
「目を閉じて、耳をふさいでください。さきほどと同じ爆発が起きます」
予告され、彼はあわてて言うとおりにした。
杭が放たれようとした瞬間、彼女はまた叫んだ。
「…『虎よ』!」

今度の爆発は、緑人本体のすぐそばで起こった。
巨大な背の一部が欠けたのが、遠目にもわかる。

火の力を基本とする魔法だということは想像がついた。
彼女の叫んだ言葉に覚えがあったのだ。

火の精は、『見る目』のある者には、虎に似た姿をして見えるらしい。
国によっては火精を炎虎とも呼ぶ。
そのためか、魔法使いの呪文においても、火精への呼びかけの常套句として『虎』が使われている。
この女の場合は、おそらく火精を用いた術の、発動の合図として使っているのだろう。

だが、彼の見たことのある火の魔法とは形式が違っている。
いや、違うのは目的だ。
火の魔法は、文字通り燃やしたり焼き切ったり、熱によるダメージや浄化効果を狙ったものが多い。
しかし彼女の使った魔法は、熱ではなく、爆発による容赦のない破壊を目的としていた。
おそらく、厳密にいって火の魔法ではない。複数の呪文を組み合わせる、高度なわざのはずだ。
田舎の町役場勤めの魔法使いに扱えるものではない。

「くっ…」
「ど、どうした?」
それまで平気そうにしていた女が、急に苦しげに息を切らしはじめた。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す