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魔剣使い
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔剣使い 6

頭部の下に、無造作に食い散らかされた何かを、彼は見つけてしまった。
そして、緑人特有の森の臭気に混じる、濃い血の臭いに気付いてしまった。
<何か>の正体を悟って、彼はぐっと口元を手でおさえた。

緑人は、そんな彼の動きに反応するように、ふいに頭をもたげた。
あわてて隠れようとする間もなく、黒くきらめく無感動な巨眼が、彼の姿をとらえた。

彼はじりじりと後ろに下がった。

逃げ切れるか…正直、一般人の彼には体力にも脚力にも自信がなかった。
基本的に日光と水と土を主栄養とする緑人は、夜間は動きが鈍い。
とはいえあの大きさだ。それに動きが緩慢でも、彼らの耐久力には定評がある。

…荷物の中に、巨大な緑人を切り抜けるのにちょうどいい呪物はあっただろうか?

緑人の巨大な独眼は、じっと彼を見つめたまま、まばたき一つしなかった。
もしや、彼を生物と認識していないのでは、と淡い期待が浮かぶ。
だが、現実逃避にすぎなかった。

もたげた頭部を、緑人はおもむろに地に下げた。同時に、くびの付け根がメキメキと音を立てて変形する。
樹木に似た棒杭が、ずらりとこちらに先端を向けて並んだ。
それらが、弧を描くほどしなる太い枝にひっかけられている。どこかで見たことがある……

軍のパレードで見た弩弓台だと気づいた瞬間、弾けるように杭が放たれた。

「やべっ…」
死んだ……!
彼は無駄と知りつつ、腕で身をかばおうとした。そのとき。
廃墟の影から、小柄な影が飛び出した。
「伏せて!」

高い女の声とともに、彼に体当たりしてくる。彼は突き飛ばされるまま地に倒れ込んだ。
黒っぽい女の影は立ったまま、緑人の攻撃に身をさらしている。
次の瞬間に棒杭に貫かれる女の姿を見たくなくて、彼は目を閉じた。
だがその瞬間は訪れなかった。

「『虎よ』!」

凛と冴えわたる、澄んだ叫びが響いた。

同時に、カッ、と爆発の閃光が走った。白光が薄闇を裂く。耳をつんざく轟音。
彼は地にうずくまってきつく耳に手を押しあてた。
頭上を、すさまじい爆風が通り過ぎる。

何が起こったのかわからず、顔を上げられずにいる彼の腕を、何者かが引っ張った。

「……って。さあ立ってください、旅の方!」
轟音で痺れた鼓膜に音が戻ってくる。
優しいが、切迫した女の声がした。
おそるおそる身を起こすと、女が白い手をさしのべてきた。

若い女だった。
癖のある長い髪が、爆風でくしゃくしゃに乱れて顔や肩に散らばっている。
小さな顔がなかば覆われ、大きな目がその奥で光っていた。シルエットだけを見るとまるで魔属の魔女種だ。
彼は一瞬パニックを起こした。ひっくり返って後ずさる。
「わっ、わっ」
「早くお逃げなさい。生き残った住民は全て避難しました。ここにはもうあなた一人です、旅の方」
女は彼の反応に、口調を和らげてそういった。
彼は周囲を見回した。
木杭は爆風で吹き飛ばされたらしい。焼け焦げて砕けた木片が、彼らを囲むように散っていた。

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