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魔剣使い
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔剣使い 5

だが大きな街まで持ち歩くのにも、売るときの見栄えを考えても、鞘はあった方がいい。
拵えの細工代と、今回使った稀少な呪物の数々、その損失を埋めてあまりあるだろう、魔剣の売り値のことを思って、彼は一人にやついた。
彼の目の前に、バラ色の未来が広がっていた。

一歩目でケチがついたことは、彼の頭から消え失せていた。



人生そううまくはいかないものだ。

「………おいおい」
町にたどりついた彼の目の前に広がっていたのは、数日前とは似ても似つかぬ廃墟だった。

田舎の小さな町なりに、豊かではないながらも日々を営んでいた、ありし日の姿は無惨に破壊されていた。
人間の姿はどこにもない。
異種属の侵攻で、一夜にして滅びる町や村の話はいくつも知っている。
だが、こうして目の当たりにするのは彼には初めてのことだった。

人の戦禍でないのは明らかだった。
家々には燃えた痕跡がなく、何か圧倒的な力によってなぎ倒されている。

呆然としながら、彼は無人の廃墟を進んだ。
誰かいないものかと、町の中心の広場に向かう。
しかし誰にも出会わぬうちに、町の出口が近づいてきた。
どうするべきか迷う彼に、ふいに剣が声をかけてきた。
「それ以上進むな、我が使い手よ」
「…え」
「我に目はないが、生命を検知することはできる。この先に敵意ある何者かがおるぞ」

ぎくりと、彼は足を止めた。
剣の忠告に従うまでもなかった。
眼前の薄闇の中に…いや、彼の前方の視界いっぱいに、それはずっと息づいていたのだ。

「緑人属…」

緑人とは、樹木や花に似た生物の総称だ。
多様性のある形状が特徴で、樹木そのもののような樹人もいれば、人間に似た姿の花びとと呼ばれる種類もいる。
人と同程度の知性をもつが、基本的に別種の生物であり、互いの間に交流はない。
ただ一部、吸血や食肉により栄養を得る者がおり、それらが時おり人里を襲う。

魔属や神霊属と違って人間と同じ物理存在なので、ただの刃物や炎で傷つけることもできる。しかし……
「緑人ってよりこりゃ、山人だな」
大きい。
彼の位置からは、大きすぎて全体像が定かではない。
建物よりも高く盛り上がり、広く広がって、背後の山にとけ込んでいる。
本物の樹木としか思えぬ、葉の生い茂った棒杭が、表面全体に無数に生えていた。
黒ずんだ茶褐色の姿は、形だけならばどこか、ぐったりと地に伏した赤ん坊に似ていた。
体表は樹皮のようにも見える。しかしところどころ腐食して、泥のような黒い何かが、ぼとぼとと絶えず垂れ落ちていた。
赤ん坊というには体に対して比率の小さな、頭部らしき括れのついたコブが、きょろきょろとうごめいている。
一つだけついた巨大な白目のない目。本能的な食欲の裏に、わずかに悪意の光が見え隠れしている。
そこだけがやけに人間を思わせた。

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